今週のCLASSY.ONLINEでの漢字の記事も、「読み」ではなく「書き間違いを含む文章の間違い探し」についてです。よく耳にする慣用句を含む問題文ですが、表記上のミス(書き間違い)を指摘し、正しい漢字を考えてみてください。
1.「彼女は大富豪と結婚して玉の腰に乗った」
「女性が婚姻などによって富貴の身分となること」という意味の慣用句が「玉のこしに乗る」です。さて、「こし」はどんな字でしたか?
正解は「腰」ではなく「輿」でした。実はこの「輿」は常用漢字にない字なので書くのも難しい字ですが、「お祭り」の「おみこし」の「こし」の字で、「人間がかつぐ乗り物」です(お祭りのおみこしには神様が乗ります)。「玉」は「美しいもの・立派なもの」の形容です。つまり、「玉の輿=立派な車」に乗ることで、富貴な身分の仲間入りをしたことを表わしているのですね。
なお、近年、この男女逆パターンを「逆玉(ぎゃくたま)」と表現することがありますが、あくまでも俗語表現という位置づけであるので、使用に関しては時と場合にくれぐれも注意しましょう。
2.「友人に依頼をしたが取りつく暇もなかった」
「頼りにする手がかりがなくてどうすることもできない」時に使われる慣用句が含まれますが、どこか変です。おわかりですか?
正しくは、「取りつく暇がない」ではなく、「取りつく島がない」です。この場合の「島」とは、「頼りにするもの」の意味で使われていますが、知らんぷりをされて気にもとめてくれない感じが、「取りつく暇もない」という誤用表現でも言い表せているような気がしてしまいますね。「シマ」と「ヒマ」は発音が紛らわしいというのも、誤用となる原因の一つかもしれません。
3.「彼は濡れ手で泡の大金をつかんだ」
間違い漢字が一字含まれているのは先ほどの文と同様です。いかがでしょうか?
「何の苦労もしないで利益を得ること」を「濡れ手であわ」とよく言いますが、この「あわ」は「泡」ではなく「粟」です。「粟」畑で栽培されるイネ科の一年草。黄色の小さな実が食用となります。濡れた手でこの泡をつかむと粟粒がついてくることから、慣用的に使われるようになったのでしょう。
ところが、水で濡れた手には石けんの「泡」のイメージもありますよね。ここから書き間違いが起きたのではないでしょうか。誤用ながら、かつてのバブル経済を連想させ、「はかなく泡と消える」なんて意味で解釈できそうです。ちなみに、国語辞典にも「泡と書くのは誤り」と注記を付けているものが見られるくらいですから、誤用の定番なのでしょう。
さて、1月16日に「共通テスト」が実施されました。今、この記事をご覧になっているのは、少なからず漢字に興味を持っている皆さんでしょうから、共通テストの漢字問題にも少し触れます。問題文中のカタカナを漢字に直すとどれになるかを、やはりカタカナで表記された選択肢の熟語から選ぶと出題スタイルです。
すべて常用漢字内の常識的なものでしたが、今年の難問は「援用(エンヨウ)」でした。選択肢「救援」は簡単ですが、本文中の「援用」は、この言葉を知らなければ書けません。「援用」とは「自説を補強するために他の文献や事例を引用すること」で、新聞やニュースなどでも時折遭遇する言葉です。覚えておきましょう。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「なぜなに日本語もっと」(三省堂)
・「赤っ恥な日本語づかい」(河出書房新社)
文/田舎教師 構成/CLASSY.ONLINE編集室
Magazine
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more