「生憎=?」「生蕎麦=?」読み間違いやすい漢字3選【ベテラン国語教師が解説】

漢字の勉強をしていると、一つの漢字でも複数の音訓を持つものがたくさんあることに気がつくでしょう。では、常用漢字表で、最も多くの読み方を持つ漢字は何でしょうか。それは、「生」です。音読みは、「セイ」と「ショウ」の2通り。訓読みは、「いきる・いかす・いける・うまれる・うむ・おう・はえる・はやす・き・なま」の10通りが示され、さらに巻末の付表には、「芝生(しばふ)」「弥生(やよい)」が取り上げられています。常用漢字表だけでもこれだけあるのに、これ以外の「表外音訓・当て字」や地名・人名まで広げれば、百通り以上もあると言われています。
今回は、そんな「生」を使った漢字の読み方でよく目にするもののうち、簡単そうではありながら実は誤読しやすいものを取り上げます。

「生」を使った、読み間違えやすい漢字3つ

1.「生憎」

「物事が予想や目的どおりに進ま

「物事が予想や目的どおりに進まなくて残念だ」という意味を表わし、「生憎の雨で遠足は中止だ」のように使います。さて、何と読みますか?

正解は「あいにく」です。古語に「あやにくなり」というのがありますが、これは感動詞の「あや」に、形容詞「憎し」の語幹「憎」がくっついた語で、「ああ、嫌だ」くらいの意味です。これが発音変化して現代語の「あいにく」になりました。「生(あい)」は当て字です。なお、現代では「おあいにくさま」の形で、相手の期待がはずれたことを皮肉るのにも用います。

2.「出生届」

「出生届」はもちろんご存じです

「出生届」はもちろんご存じですね。子供が生まれたら役所に提出するあの書類です。では、その読み方は?

「シュッセイ/とどけ」派と「シュッショウ/とどけ」派と分かれたことでしょう。正解は「シュッショウ」です。「生」の音読みの一つ「ショウ」は、「呉音(日本に最も古く伝わった音)」で、もう一つの「セイ」はそれより後に伝わった「漢音」です。「ショウ(ジョウ)」は「生涯・誕生・往生」などの熟語がありますが、「生産・発生・生徒……」など、多くの熟語は「セイ」ですよね。辞書で「出生」の語を「シュッセイ」の読みで引くと、「シュッショウを見よ」と誘導されます。逆に、「シュッショウ」の語釈の中に「シュッセイ」の記述が現にあり、厳密には間違いではないのですが、「出生届」や「出生率」など決まりきった言葉の場合は、やはり「シュッショウ」と読むべきと考えます。

3.「生蕎麦」

おそば屋さん(蕎麦の「蕎」の字

おそば屋さん(蕎麦の「蕎」の字は常用漢字外なので、ここでは平仮名で書きます)の看板や貼り紙に、この言葉があったら、さて、何と読みますか?

「なまそば」派と「きそば」派と分かれたことでしょう。正解は「きそば」です。「きそば」とは、「そば粉以外に小麦粉などがほとんどない、純粋のそば」のこと。そば通の方からすれば、「きそば」と読むのは当たり前で、問題になどならないとお考えでしょう。でも、「乾麺」に対する「生(なま)麺」という言葉が一般化するにつれて、最近は「なまそば」と読む人が増えているようです。言葉としては、「茹でていない(火を通していない)そば」という意味の「生(なま)そば」が通用するようになっても、「老舗(しにせ)」そば屋の看板に掲げられた「生蕎麦」は、やはり「きそば」でしょう。

では、また次回。

《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「なぜなに日本語もっと」(三省堂)
・「1秒で読む漢字」(青春出版社)

文/田舎教師 構成/CLASSY.ONLINE編集室

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