【芸人・吉住さん】「最後の『怒られ世代』だったので、めちゃくちゃ怒られました」
ハラスメント意識が高まり、職場で強く指摘される機会が減った昨今。もちろん安心して働ける環境は大切だけど、時には怒られることが成長のきっかけになることもあります。人間関係や日常に潜む違和感を独自の視点で切り取る、芸人・吉住さんに、CLASSY.世代が抱える「怒られたいけど、怒られない」モヤモヤについて聞きました。
「ただ怒られること」=「成長」とは
限らない。言葉の裏にある意図や経験を
汲み取れるかどうかのほうが大事
傷ついた言葉も成長の糧に
若手時代に見つけた
私が絶対に譲れないこと
私は今から10年くらい前が、芸人として下積み期真っ只中のころ。最後の「怒られ世代」だったので、めちゃくちゃ怒られました。今思えば理不尽なこともたくさんありましたけど、その経験が今につながっている部分もあります。当時はまだ今ほどコンプライアンスが厳しくなかったので、ネタ見せに行くと知らない作家さんやテレビ局のプロデューサーなど偉い人にネタをボロクソに言われるんです。「女芸人なら女のあるあるをやれ」とか、「もっと太れ」とか今だったら炎上しそうな見た目に関することも平気で言われました。でも、そういう発言をする人って、他人へのリスペクトがなかったりするんですよね。別の芸人さんの単独ライブで前の席に足をのせていたり、態度がすごく悪かったり。それを見て、「こんな大人には絶対にならないようにしよう」と思いました。とはいえ、その人たちも一応それなりの立場がある人。あの時代はそれがウケていた部分もあるし、彼らにとってはそれが笑いの正解だった。言葉には棘があるけど、その裏にある意図まで考えてみると、見えてくるものがありました。例えば「もっと太れ」という言葉も、単に見た目の話をしているのではなく、「テレビに出た時に一瞬で覚えてもらえるキャラクターがあったほうがいい」という意味で言っていたんです。ただそれと同時に「それって今の時代と合ってることなのかな?」とも考えました。少しずつ、見た目をいじることへの違和感も広がっていた時期だったので。考えていくうちに、私は「ネタを面白いと思ってほしい。賞レースで勝ちたい」と気づいたんです。その時に、自分が譲れないものがはっきりしました。そこから、より一層ネタ作りに力を入れるようになって、結果的に優勝もできたので、あの頃の先輩にほんの少しは感謝しています(笑)。
とはいえ、みなさんに同じ経験をしてほしいかと言われたら、全くそんなことはありません。理不尽なことで不用意に傷つく必要なんてないし、私はたまたまそれをエネルギーに変えられるタイプだっただけ。年齢を重ねて、最近はすっかり先輩側の自覚も出てきたので、若い人にはできるだけ快適に働いてほしいと思っています。それでも、はっきりダメと言われない環境だから成長のきっかけが難しいですよね。以前だったら、上司や先輩が自分たちの経験をもとに、「それはいい」「それは違う」とある程度ジャッジしてくれていた。良くも悪くも進む方向を示してくれる人がいたんですよね。でも今は、褒められることはあっても、「ここは違う」と言われる機会が少ない。だから、悪い部分は自分で見つけて、自分で修正していかなきゃいけない。ある意味、選択肢が増えた時代だからこそ、「これは本当に自分に合っているのか」「この方向でいいのか」を、自分で経験しながら選択して判断していくしかないんです。当時、理不尽とかではなく、「これは面白くない」とバッサリ言われることがありました。その時はしっかり傷つきましたけど、あそこで曖昧に「可能性はあるね」と言われていたら、向いていないものに期待し続けていたかもしれない。ダメなものを早く知れたからこそ、次に進めた部分もありました。そういう機会が少ない分、今の若い人たちはどうしてもトライ&エラーの回数は増えると思います。だから、自分から「どうでしたか?」と聞きに行ける人のほうが、成長のスピードは早いんじゃないかなと思ったんです。ただ言われた言葉をそのまま正解として受け取るのではなく、「これは今の時代にも通用する考え方なのか」と20代のフレッシュな価値観で考えて、自分で読み取っていくことが大事だと思います。
本音はできる限り怒られたくない!
怒られた時、
意見を素直に受け入れられている
=そのこと自体が成長の証し
他人の意見を聞けなかった
尖っていた20代が過ぎ
多様な意見を入れるように
アラフォーを目前にして、20代のころは到底受け入れられなかった価値観も、今では新鮮に感じるようになりました。むしろ「もっと知りたい」と思うことも増えました。最近、仏教の本を読んでみましたが、こんなに歴史が続いているのに、人間の悩みの根本って変わらない。それってすごく面白いなと思って。昔の人が残してくれた言葉や考え方のなかに、今の自分にも響くものがたくさんあるんです。そうやって、自分になかった視点を取り入れられるようになった時に、「少しは成長したのかな」と感じます。きっと、読者のみなさんも同じように思う瞬間があるはず。でも、私、20代は本当に尖っていました(笑)。プライドが邪魔して、人に相談するのが苦手だったんですよね。「自分はこう思う」「こういうものを作りたい」という気持ちが強すぎて、自分と違う意見を素直に聞けなかった。本当は先輩に聞けばすぐ解決するようなことでも、「自分で答えを出したい」と意地になってしまう。今思うと、視野がすごく狭かったです(笑)。でも、あのころはあのころで、自分を信じる力がないと続けられないこともあったと思います。芸人って特に、周りと違うことをやらなきゃいけない仕事なので、「自分はこれでいく」という頑固さも必要だった。だから、若手時代にもらった言葉って、すぐには理解できなくても、後から効いてくることが多いんです。その時は「何を言っているんだろう?」「間違ってる」と思ったことでも、経験を重ねた後に「あの人が言っていたのは、こういう意味だったのか」と分かる瞬間があります。昔、親戚のおじさんに「勉強しといたほうがいい」と言われることってあったじゃないですか(笑)。そういう言葉の本当の意味って、自分の経験が増えた時に初めて見えることもあると思います。だから今は、すぐに「違う」と跳ね返すのではなく、一回自分の中に置いておくようにしています。
芸人って、人からどう見られているかがすごく重要な仕事なんです。自分ではコンプレックスだと思っている部分が、実は個性や武器になることもある。私は周りから「暗そうに見えるね」と言われたとしても、それを悪い意味だけで受け取るのではなく、客観的な意見として取り入れる。自分では気づけない意見のおかげで、新しい可能性やスキルアップへとつながるきっかけになることだって結構あります。もらった言葉をそのまま受け入れる必要はない。でも、一度ちゃんと咀嚼してみるのはどうでしょうか。その言葉が、何年後かに自分を助けてくれることもあると思います。
CLASSY.世代の読者のみなさんは自分の成長を俯瞰して考えられている真面目な人ばかり。だからこそ、令和の“怒られない時代”に上手く順応して、自分自身で成長のきっかけを掴みとっていってほしいです!
profile
吉住さん
1989年生まれ。福岡県北九州市出身。「女芸人No.1決定戦 THE W 2020」で4代目チャンピオンに輝く。テレビや配信番組、ラジオなど幅広く活躍中。
〈衣装クレジット〉ジャケット¥24,200シャツ¥19,800パンツ¥18,700(すべてアンタイトル)フラットシューズ¥12,650(アルテミス by ダイアナ/アルテミス by ダイアナ アーバンドック ららぽーと豊洲店)イヤリング¥12,960リング[左手]¥13,200リング[右手]¥4,320(すべてアビステ)
撮影/川﨑一貴(Ajoite) ヘアメイク/桑野泰成 スタイリング/大野由加里 取材/小森香沙音 編集/鈴木日向 再構成/Bravoworks,Inc.
※CLASSY.2026年10月号「本当は“怒られたい”私たち」より。
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。
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