――たとえば地平線を見渡せる広大なサバンナを想像してほしい。そこには一匹で佇むチーターでもいるとしよう。遠く翻って社内の会議室にいるヒラヤマは、そんなチーターが逃した獲物を見送る時に見せる、何かを悟ったような穏やかで遠い眼をして座っている。「対話篇」の幕開けが間近に迫っていた。
ヒラヤマ(以下H) なあタガシラ。
タガシラ(以下T) はいはい、なんでしょう?
H ・・・あのさあ。
T ええ。
H ・・・オレって、やっぱり黒いのかなあ。
T ・・・ヒラヤマさん、いまPCの前で少なからぬ人がイスからズッコケたと思いますよ。どうしたんですか、もっとご自分に自信をもってください。いまさらご自身の来し方を後悔していらっしゃるんですか?
H いや、そうじゃなくて、先月号の校了をしている時なんだけど・・・。
T 5月号の校了がどうかしましたか?
H もう遅い時間だったんだが、何気なく外に目をやると編集部の窓ガラスに映る自分の姿が見えたわけだ。
T はあ。
H 更けゆく夜、多忙きわめる部下たち、いっこうに終わりの見えない仕事。・・・そんな時にふと気づいたんだよ。オレって黒いな、と。いやむしろ夜景に溶け込んで自分の輪郭がよく見えないな、と。
T ・・・いつになくちょっとセンチメンタルに語るから何かと思ったら、今ごろそんな発見を!? そりゃそうですよ。ただでさえヒラヤマさんは窓に映らなくても暗闇にいると識別しにくいんですから・・・。それこそウィンブルドンみたいに全身白でも着ていただかないと。・・・って、ま、まさかそんなエピソードにインスパイアされて6月号の特集を「白」にしたんですか!?
H んなわけないだろうが。第一特集を「白」、第二特集を「ワンピ」にしたのは、文字通りこれからもずっと着ていくだろうからだよ。流行にももちろん目配りしつつ、けれどもそれに左右されないベーシックさを追求するうちの雑誌っぽいだろ。しかも、特に白ってリッチに見えるのもいいよね。
T 男ウケもしますよね。白シャツ、白ワンピ、白T、どれもボクの大好物ですよ❤ こればっかりは見ていて飽きませんし、まあ白いごはんみたいなもんなんですかね。
H そういうこと・・・なのか?(笑)しかしまあ、なんだな、こういう思い切った特集にした次の号というのは、何をやったらいいのか迷うな。
T いやあ、今日白シャツをお召しになっているからってわけじゃないですけど、やっぱり今月号のようにヒラヤマさんっぽいのがいいんじゃないですか。
H なんだろうな、「太らない食べ方」とか?
T いやいやいや、それじゃあ別の雑誌になってしまいます。
H 決めた! 来月号の特集は「黒」にしよう。
T ヒラヤマさん、いくらなんでもそれは白黒つけすぎですよ・・・。