【西 加奈子さん】カナダ移住と闘病生活「人に助けてって言えるようになりました」海外で気づいた本当の強さ
堀田茜が「30代になってなんだか気になる…」と感じるタイムリーな話題を、今会いたい識者に直接聞きに行く連載。いつかはしてみたい、憧れの“海外生活”…でも不安もいっぱい。今回はカナダへの移住、そして現地での闘病生活も経験した作家の西 加奈子さんに一歩を踏み出すヒントをお伺いします。
人に頼るのが苦手。
予防線を張って生きてるから、
海外に住んでみてそんな自分を打破したい!
【今月の茜のモヤモヤ案件】
いつか海外で生活してみたいし、2拠点生活にも憧れます。でも未知のことなので漠然とした不安がいっぱい!カナダに移住し、現地で闘病生活もおくっていた作家の西 加奈子さんに、どんな生活をされていたかお伺いします。
〈今月話し合いたいこと〉
いつか海外に住んでみたい!どんないいこと/悪いことがありますか?
海外の良さを知った上で
日本のこと、自分のことを
分かるようになったかも
西:堀田さんが出ていらっしゃる『イッテQ!』は家族で見ている大好きな番組で、日曜夜に外にいたら「イッテQはじまるで〜!」ってチャリめっちゃ漕いで帰ってます。なので、呼んでいただけてすごくうれしいです!
堀田:私も西さんとお話ししてみたかったのでそう言っていただけてうれしいです。番組でも海外のあちこちに行きますし、両親が旅行好きで幼い頃からいろいろな国に連れていってもらったので私も旅が好きで。人生一度でいいから、海外に住んでみたいという夢があるんです。西さんは以前にバンクーバーに3年住まわれて、今も定期的に行かれているんですよね。
西:そうです。私も夫とめっちゃ海外旅行したのですが、行く先々で「この国に住んだらどんな感じだろうね」と話していて、そのひとつがカナダでした。堀田さんと同じで「いつか一度は海外に住みたいね」の気持ちからはじまったこと。子供がいたので英語圏が良くて、カナダは人が優しい気がしたのと、大阪っぽいノリを感じて住みやすそうだったのでカナダに決めました。
堀田:西さんのエッセイ『くもをさがす』に書かれていた現地での闘病生活や言葉の通じなさに苦労された想いを読むと、憧れだけで海外に住んではいけないな、現実的に考えて拠点を選ばなきゃいけないということと、私も海外で知らない価値観や文化に触れてみたいと掻き立てられる気持ちが芽生えました。
西:私は42歳のときにカナダに移住したんですけど、まだ親が元気やったから行動に移せたというのもありました。親とか子供とかみんないろんな事情があるじゃないですか。移住できること自体がすごく特権やなと思います。あとは現地の物価に対応できるかという超現実的なこととか。
堀田:そうですね。あとは「よし行くぞ、エイッ」とできる勇気と行動力が一番必要かなと思うのですが、どうでしたか。
西:夫の仕事、家族の環境とかいろいろちょうどいいタイミングが訪れたんです。それで今行こう!子供もまだ小さいし!って。
堀田:やっぱりタイミングもありますよね。西さんみたいにチャンスをきっかけに行動を起こせるのはすごいなと思います。カナダに行って良かったこととか、西さんご自身が変わったことは何かありますか?
なんでも西洋が先行してるって
思い込んでいたかも。逆でもいいじゃんって
変な憧れがなくなりました
西:うーん…3年間では自分の日本人性なんて変わらんなと思いましたね。カナダはとてもリベラルだし、子育てにすごく理解があるからとにかく生活しやすかった。向こうには日本で言うご迷惑をおかけします、みたいな表現がないんですよ。でも帰ってきたらすぐ日本の視点から物事を気にするようになっちゃった。ただ、自分がいかに狭い世界にいたか気づけたのは良かった。特に文芸の世界ってめっちゃ狭くて、日本で直木賞を取ったなんて言ったらなかなかのビッグディールですけど、カナダに行ったらマジで何者でもない。NO肩書き。日本にいると小説家としての自分で生きてしまう部分が多かったし、イキってないつもりやったけどイキってたなって。カナダで柔術をはじめたんですけど、私すごく弱くて、15歳の子にボコボコにされたりして(笑)。その上英語はろくに喋れない。私って何もできないんだなって情けなさがあり、清々しくもあり、本来の自分に戻れた気がしました。あとは、海外の価値観のいいところもたくさん経験した上で、日本の価値観のいいところに改めて気づかされるメリットもありましたよ。
堀田:それは結果的に、いい経験ですよね。日本と海外それぞれのメリットとデメリットはやはりありますもんね。その中で、改めて日本の良さに気づくって素敵です。
西:私たちって海外…特に北米に憧れさせられすぎじゃないですか。私は自分の作品をアメリカで翻訳出版したい夢があったのですが、「アメリカで翻訳されることがすごい」となぜ思っていたか考えると、映画や音楽から来る刷り込みだったなって。なぜかいつも西洋のほうが正しくて、西洋のほうが先行しているかのようで、なんでいつもうちらのほうがそこから学ばなあかんのって。日本のやり方を逆に学ぶことはないの?という違和感に気づいたのは良かった。日本にもいいところいっぱいあるで、みたいなね。例えば、日本ってファッションテイストの多様性がありますよね。東京とバンクーバーを比べると、人種の多様性はバンクーバーのほうがあるけれど、ファッションや経済の多様性は東京のほうがあるかなと。今年、ついに私の作品の英訳版が出てめっちゃうれしかったんですけど、そんなことに気づいた後だったからいい意味でちょっと冷めていて。そんな感覚の変化は移住してこそ、ですね。
堀田:いざ海外に住めることになったとして、私や夫の価値観が変わって、今まで嫌だと思わなかった相手の性格や価値観を嫌だと思いはじめたりしないか。夫婦関係が壊れてしまうんじゃないかって、不安もあります。
西:めっちゃ可愛い不安ですね!可愛い。
堀田:え!(笑)この不安違いますか!?夫婦をやっていればお互い自立した価値観でうまくやっていけるものですか?
西:ふたりで乗り越えてることがたくさん出てくるから、絆が深まるんちゃうかなあ。もし違う環境に身を置いて夫婦関係が壊れるくらいやったら、いつか壊れる関係やと思うんですよ。だからそれはそれでいいきっかけになるかもしれないですよね。
堀田:たしかに、前向きに捉えればいいのか。西さんはパートナーと関係性に変化はありましたか?
西:私ががんになったので生き延びるということに対してのチーム力は高まりましたよ。ふたりとも英語力がない状態で行ったからとにかくいろんな人に助けてもらったし、ふたりの間でも助け合わないといけなかったので、絆は強くなったと思います。
堀田:素敵ですね。それを聞いて今めちゃくちゃ背中を押されました。
海外生活は困ることだらけ
誰かに「助けて」と頼る勇気が身につく場所
西:さっきの「何か変わったか」という質問、それで言うと、人に助けてって言えるようになりました。結構なんでもひとりでやってきたがんばり屋タイプだったけど、言葉が通じない場ではひとりで何もできなかったから。
堀田:私も人に頼るのが苦手なんですよ…。
西:似てますね。
堀田:いやいや恐れ多いですけど、うれしいです。
西:それならなおさら、海外に住んでみるといいと思う。若いうちに行って、大ピンチに遭って「どうしよう!助けてください!どうしたらいいですか!」って言えるようになると、人として大きくなるかもしれないです。自分が誰かを助けることがナチュラルにできるようになるし。
堀田:“人を頼れるようになること”、実は今の私の課題なんです。私すごく心配性で、いろいろなことに予防線を張りながら生活をしているので、これまで大きく困ったことがなくて。だから人に頼ることができないのかもしれないなと思うと、変な話ですけど、困ってみたいというか(笑)。
西:いいと思います。海外移住なんて困ることだらけですよ。例えば海外だと業者の人が約束を守らないなんて普通ですからね。この日に工事来てって言ったのに来ないとか、病院ですら電話折り返すって言っていたのに電話してこないとか、聞いてない話を当たり前のようにされるとか、そんなんばっかり。私は現地で闘病生活もしていたので、病院で飛び交う英語が分からないというのもあったし。
堀田:そういうお話も本の中にたくさん書かれていましたよね。日本じゃありえないじゃないですか。それを笑って関西弁で受け流す西さんのツッコミがおもしろかったんですけど、私もそんなふうになれるかな。日本は困らないようにシステム化されているっていうことですもんね。
西:堀田さんはどこに住みたいですか?
堀田:うーん、今のところ一番心に響いた国はドイツでした。人や街の温度感が優しくて落ち着いたんですよね。あとはアラスカも良かったです。仕事で行ったのですが、会う人誰もが温かくて、全員を尊重してくれて。居心地が良かったですね。
西:アラスカに移住ってめっちゃおもしろい。「堀田さんがアラスカ!?」って二度見すると思う(笑)。
堀田:いつかそんなお知らせができるようにがんばります(笑)。
西:そのときはこの対談を家族に自慢します!
堀田:西さんのお話を聞いて、海外移住の大変さを知れたけど、それがまた楽しみにもなりました。自分が人として成長できるならそれも期待したいし、いつか叶えられる夢だと信じて計画してみます。
対談したのは…
Kanako Nishi
にし かなこ●小説家。1977年5月7日生まれ、イラン・テヘラン生まれのエジプト・カイロと大阪育ち。2004年『あおい』でデビュー。2007年『通天閣』で織田作之助賞、2013年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、2015年『サラバ!』で直木賞を受賞。
初のノンフィクション『くもをさがす』を滞在先のカナダにて執筆し、2023年に刊行。2026年4月に文庫化。新刊に9月刊行『きずもの』。
Akane Hotta
ほったあかね●モデル、俳優。1992年10月26日生まれ、東京都出身。CLASSY.をはじめ多くの女性ファッション誌、ドラマに出演。「世界の果てまでイッテQ!」(日本テレビ)レギュラー。『ENEOS FOR OUR EARTH -ONE BY ONE-』(J-WAVE)ナビゲーター。2024年4月に結婚。
[茜衣装]ワンピース¥15,400(Mila Owen/Mila Owen ルミネ新宿2店)肩に巻いたカーディガン¥20,900(ルーニィ)イヤカフ¥9,350リング〈人差し指〉¥15,950リング〈中指〉¥20,350(すべてココシュニック オンキッチュ/ココシュニック)※西 加奈子さんの衣装は本人私物です
撮影/杉本大希[堀田茜さん分]、木村 敦(Ajoite)[西 加奈子さん分] スタイリング/川瀬英里奈 ヘアメイク/TONOE 取材/野田春香 編集/小林麻衣子 再構成/Bravoworks,Inc.
※CLASSY.2026年10月号「堀田茜のほったらかしにしたらアカン!」より。
※掲載中の情報は誌面掲載時のものです。商品は販売終了している場合があります。
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