木村多江さん「20代はもがいてばかり。でも、失敗だと思った時間も、後から自分を支えてくれる」【舞台『わたしの書、頁を図る』主演】

仕事を続けていると、プレッシャーに押しつぶされそうになったり、失敗をいつまでも引きずったり、人との距離感に悩むことがある。木村多江さんも20代の頃は、もがきながら、自分なりの立ち方を探していたと言います。舞台初主演作『わたしの書、頁を図る』で向き合ったのは、“静かな自分”と“ロックな自分”。傷ついた経験や失敗をどう受け止め、自分の糧に変えてきたのか。木村さんの言葉から、しなやかに働き続けるためのヒントを探ります。

Profile

東京都生まれ。学生時代から舞台活動を始め、1996年にドラマデビュー。2008年には初主演映画『ぐるりのこと。』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞など多数の賞を受賞。主な代表先に『ブラックリベンジ』(NTV系)、NHK連続テレビ小説『とと姉ちゃん』、『あなたの番です』(NTV)、『やんごとなき一族』(CX)、『まどか26歳、研修医やってます!』(TBS)、『This is I』(Netflix)など。映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍している。繊細な感情表現と確かな存在感で、多くの作品に深みを与えてきた。日本舞踊の師範としての一面も持つ。

「静かな私」と「ロックな私」、どちらも私の中にある

――本作『わたしの書、頁を図る』は、木村さんへの“あて書き”から生まれた物語だと伺っています。最初に台本を読まれたとき、ご自身のどんな部分を見つめられているように感じましたか?

最初にオファーをいただいたとき、小沢道成さんから「ロックな木村さんが見てみたい」と言われたんです。でも、台本で描かれていたのは図書館職員の町子。静かな場所で働く彼女と“ロック”が、最初はうまく結びつきませんでした。

ただ、台本を読んでいくと、町子は静かで人とのコミュニケーションも得意ではない一方で、妄想が始まると一気に自由になる人物なんです。たくさん喋ったり、歌ったりもする。その振り幅がすごく面白いなと思いました。

実は私自身、友達からは「ロックだよね」と言われることが多くて。昔からどこか枠を飛び出したい気持ちや、人を驚かせたり笑わせたりしたい気持ちがあったんです。だから、町子の静かな部分も、妄想の中で解放されるロックな部分も、どちらも自分の中につながるものがあると感じました。台本を読みながら、自分の芯を少し突かれているような感覚がありました。

――木村さんが演じる柳沢町子は、どこか孤独や不器用さを抱えた人物です。木村さんは、町子のどんなところに愛おしさを感じましたか? また、ご自身と重なる部分はありましたか?

町子は、人と関わりたくないというより、深く関わらないほうが自分を守れると思って生きてきた人なんだと思います。傷つかずに済むから、その距離感のままやってきたんですよね。その感覚は、私の20代にも少し重なるところがありました。仕事をしていく中で、傷つくこともありましたし、人とあまり深く関わらないほうが安全だと思っていた時期があったんです。

だから、町子の孤独や不器用さは他人事に思えませんでした。うまく人と関われなかったり、自分の居場所が見つからなかったりする感じって、今も多くの人がどこかで抱えているものだと思うんです。でも、人って不器用だったり、少し愚かだったり、滑稽だったりするじゃないですか。私は、町子のそういう“うまくいっていない感じ”がとても愛おしいなと思いました。だからこそ、この人をなんとかしてあげたいという気持ちで稽古に向かっています。

主演として引っ張るより、みんなが走り切れる空気をつくりたい

――今回、舞台初主演ということになりますが、これまでとは気持ちの持ち方や現場での在り方に変化はありますか?

私は、映像でも舞台でも、「主演だから」と特別に意識することはあまりないんです。板の上に立ったら、みんな一緒という感覚が強いので、主演だからお芝居で引っ張るというよりは、みんなが気持ちよく最後まで走り切れる空気をつくりたい、という思いのほうが大きいです。映画やドラマの現場でも、その人が自然に入ってこられるような雰囲気にしたい、ということはいつも意識しています。

ただ、役への向き合い方は、主演だからといって大きく変わるわけではありません。小さな役でも大きな役でも、その人物には表に見えていない人生がある。そこまで含めて背負いたいという気持ちは、いつも変わりません。もちろん、主演として見ていただくことへのプレッシャーはあります。でも、そればかり考えてしまうと負けてしまいそうになるので、あまり意識しすぎないようにはしています。

失敗は、後から自分を支える“経験”になる

――CLASSY.世代の読者も、仕事で大きな役割を任されるようになり、プレッシャーと向き合う場面が増えてくると思います。木村さんは、そうしたプレッシャーや失敗をどのように受け止め、乗り越えてきましたか?

20代の頃は、本当にもがいていました。もがいて、もがいて、もがきまくっていたので、そのときは「乗り越える」という感覚もなかったと思います。どうやって乗り越えたかといえば、時間が解決してくれたところもありました。

映像の仕事で思うような結果を残せなくても、もう撮り終わっているからどうにもならないんです。それでも、そのセリフを1カ月練習したりしていました。次は絶対に挽回する、どこかで絶対に挽回する。そう思っていたんだと思います。当時は失敗だと思って落ち込んでいました。でも、絶対にその時間を無駄にしないとは思っていました。今振り返ると、失敗って失敗じゃなかったんですよね。

――失敗を“経験”として持ち直せるようになったんですね。

今回の作品にも、「失敗という言葉はない。データなんだ」というセリフが出てくるんです。私のセリフではないんですけど、本当にそうだなと思います。データというと少し言い過ぎかもしれませんが、自分の中の大事な経験なんです。痛みを伴った経験も、その後すごく大きく生きてくるときがある。だから今なら、失敗と思わなくてもいいのかもしれないと思えます。

嫌なことをされたときも、私は役者なので「絶対に使ってやる」と思うんです。この嫌な感じ、絶対に役でやるぞって。人から嫌な気分にさせられたときも、次の日に持ち越さないようにしています。その日のうちに、「いい勉強をさせていただきました。ありがとうございます」と思うようにするんです。

――その感情を、自分の中でちゃんと変換していくんですね。

ありがとう、ありがとう、ありがとう……と、その言葉が腑に落ちるまで言ってから寝るようにしています。嫌な人や嫌な出来事のせいで、自分に怒りジワや嫌なシワができるのが嫌なんです。眉間のシワとかね。嫌なことを考えていると、つい眉間にシワが寄ってしまう。でも、それってそのうち固まってしまうんですよ。

若いうちは戻るんです。でも20代、30代前半で気をつけておかないと、30代後半、40代になってくると、それが本当のシワになって残ってしまう。だから絶対にそうはならないぞと思っていました。きれいなシワ、いいシワのある40代、50代を目指したい。そこは気をつけたほうがいいかもしれません。

Information

舞台『わたしの書、頁を図る』

第31回読売演劇大賞で3部門を受賞した作・演出家・小沢道成さんによる最新作。舞台は静かな図書館。過去に傷を抱え、孤独に生きてきた図書館職員・柳沢町子が、個性豊かな利用客たちとの出会いを通して、退屈だった日常を少しずつ変えていく姿を描きます。木村多江さんが舞台初主演を務め、味方良介さん、光嶌なづなさん、中井智彦さん、坂口涼太郎さん、猫背 椿さんが共演。芝居、歌、演奏で物語を彩る、笑いと涙のヒューマンエンターテインメントです。

2026年7月3日(金)~19日(日)@紀伊國屋ホール

コンビネゾン¥48,400(LE PHIL/LE PHILニュウマン新宿店 03-6380-1960)イヤーカフ右大¥280,500イヤーカフ右小¥184,800イヤーカフ左上¥225,500イヤーカフ左下¥169,400リング右中指¥53,900リング右人差し指中指¥88,000リング左¥198,000(すべてHirotaka/Hirotaka 表参道ヒルズ 03-3478-1830)靴 スタイリスト私物

撮影/You Ishii ヘアメイク/土谷郁子(FACE-T) スタイリング/成子美穂 取材/池田鉄平 編集/宮島彰子