今回は、常用漢字の音訓表に示されていない読み、いわゆる「表外読み」のうち、よく目にする訓読みを複数持っている漢字を取り上げます。
1.「集る」「集く」
最初は「集」です。この漢字の常用漢字表に示された訓読みは、「集(あつ)める/まる」と「集(つど)う」の二種類があります。前者は問題なく読めるとして、「親族が祖父母の家に集う」などと使う「集う」のほうは、常用漢字表にあったことを意外に思う人もいるかもしれません。
では、この「集る」「集く」はそれぞれ何と読むでしょうか。ちょっと難しいかもしれないので、ヒントの例文を。「ごはんにハエが集る」と「草むらに集く虫の声」。
正解は「集(たか)る」「集(すだ)く」とそれぞれ読みます。なお、「集る」は「一カ所に集まる」、「集く」は「虫などがたくさん集まって鳴く」という意味です。
2.「与する」「与る」
次は「与」です。常用漢字表に示された訓読みは、「与(あた)える」ですが、この二つは、それぞれ何と読むでしょうか。これは、例文を見ても、ピンとこない人もいるかもしれませんが、ヒントとして提示します。「少数意見に与する」「議案作成に与る」
いかがでしょうか?正解は「与(くみ)する」「与(あずか)る」とそれぞれ読み、「与する」は「同意して加勢する」、「与る」は「かかわりを持つ」という意味です。なお、これは熟語も一緒に覚えておくのがコツです。「与する―与党」「与る―関与」、これで読みと意味が結びつくはずです(「与える」ならば「給与」「授与」など)。
実は、先日行われた今年の「共通テスト 国語」の問題に、この知識が必要な問題が出ました。
問題は、「与える」と異なる意味を持つものを次から選べ(キョウ与・ゾウ与・カン与・ジュ与)。正解は「カン与(関与)」です。「キョウ与(供与)」が受験生にはなじみがなかったかもしれません。
3.「塗れる」「塗す」
最後は「塗」です。常用漢字表に示された訓読みは、「塗(ぬ)る」ですが、「塗れる」「塗す」はそれぞれ何と読むでしょうか。ヒントの例文は「汗に塗れて働く」「お餅(もち)にきな粉を塗す」です。
正解の一つ目は、「塗(まみ)れる」と読みます。「あるものが一面にくっついて汚れる」という意味ですが、スポーツ新聞などで、「一敗地に塗れる」の見出しを見かけたことはありませんか。これは、「徹底的に打ち負かされる」時に使う言葉で、中国の古典『史記』に由来する故事成語です。
また、二つ目は「塗(まぶ)す」と読み、例文のように「粉などを全体にまんべんなく付ける」ことを表わします。
「訓読み」は、「漢字をその意味に当てた日本語の読み方で読むこと」なので、読めることは、その漢字が本来持っている「顔」をいろいろな角度から見ることになります。難しいけれど、そこが漢字のおもしろいところですね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「国語力がメキメキ身につく本」(河出書房新社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)