私の地元では、先週、公立高校の入試が一斉に行われました。「国語」の漢字問題は、例年通りの読み書き5問ずつの出題(マークではなく記述解答です)。全公立高の統一問題ですので、学力差もあるでしょうから、全体に「やさしめ」レベル。その中で、一番正答率が低いと思われるのは、「読み」が「布地を裁つ」、「書き」が「町のエンカクを調べる」でしょうか(皆さんは、おわかりですね)。
さて、漢字の中には、「他に似ている一般的な漢字」があるために、そのせいで間違えてしまいがちな漢字があります。入試漢字(大学・高校)でも、定番の出題です。今回はそんなものを紹介していきます。
1.「陶冶」
最初は「人格を陶冶する」などと使う「陶冶」です。何と読みますか?「陶冶」の「冶」は、「政治」「完治」「湯治」などに使う「治」と似ていますが、よく見ると「治」は「さんずい」なのに対して、「冶」のほうは一画少ない「にすい」ですね。ですから「トウジ」「トウチ」と読みがちですが、残念ながらこれは間違いです。
正解は「トウヤ」でした。意外かもしれませんが、この「冶」も常用漢字です。常用漢字表には、音読み「ヤ」のみが記載されています。漢字そのものの意味は、「金属をとかして器物を作る」ですから、「陶冶」は、「陶器を作り、鋳物(いもの)を作るように、人の性質や才能をきたえて育て上げること」の意味になります。
2.「総帥」
次は「グループの総帥」などと使う「総帥」です。何と読みますか?「総帥」の「帥」は「教師」「師匠」「技師」などに使う「師」と似ていますが、よく見ると「師」の右側は「帀」ではなくて一画少ない「巾」。ですから、「ソウシ」と読みがちですが、これは間違いです。
正解は「ソウスイ」でした。実は「帥」も常用漢字外です。常用漢字表には、音読み「スイ」のみが記載されています。漢字そのものの意味は、「(軍隊を)ひきいる・将軍・かしら・長官」です。したがって、「総帥」であれば、「全軍を率いて指揮を取る人。総大将。最高指揮官」の意味になります。特に、現代では、「企業グループなどを率いる長」の意味で使うことが多いですね。
3.「恬淡」
最後は「利欲に恬淡な人」などと使う「恬淡」です。今回一番の難問ですが、何と読みますか?「恬淡」の「恬」は、「生活」「快活」「活躍」に使う「活」と似ていますが、「恬」は「さんずい」ではなく「りっしんべん」です。ですから、「カツタン」ではありません。また、「りっしんべん」の右側には「舌」がありますので、「舌」の音読み「ゼツ」にひかれて「ゼツタン」とも読んでしまいがちですが、これも間違いです。
正解は「テンタン」でした。この「恬」は、常用漢字外です。漢字そのものの意味は、「安らか。静か。あっさりしている」です。ですから、「淡(あわ)い」と連結した「恬淡」は、「欲がなく、物事に執着しないこと」の意味です。
いかがでしたか?この手の漢字はまだまだたくさんありますので、また取り上げます。では、今回はこのへんで。
《参考文献》「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「新字源」(角川書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「古語林」(大修館書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)