「新生活を始めた時期に、観てはいけない映画」4選【理由はいろいろなのですが…】

今回の大人女子のための映画塾では「新生活のシーズンに観てはいけない映画」を4本紹介します。本当はどれもすべて良作なのですが、新年度のはじめに観てしまうと、テンションが下がってしまう可能性が高いので、もし鑑賞する際にはご注意ください…。なお、作品はすべてAmazonPrimeに加入しているかたならば、誰でもPrimeVideoで無料で見られる作品です。

1.映画『RUN/ラン』

母親の娘への歪んだ愛が狂気に…毒親を脅威のエンタテイメントに仕上げたサスペンススリラー

これからエンジンをかけたい新年度に、映画に体力を吸い取られてしまう可能性があるので要注意!

あっという間の90分!登場人物はほぼ、母と娘。毒親を脅威のエンタテイメントに仕上げた、少女が母親に隠された秘密を暴くサスペンススリラーです。PC画面上ですべてのドラマが展開するという斬新な映像手法で注目を集めた『search/サーチ』(2018)のアニーシュ・チャガンティ監督が、母親の娘への歪んだ愛が狂気に変貌していくさまを描きます。特筆すべきは、オーディションで選ばれた新人女優クロエ役のキーラ・アレンの堂々たる演技!彼女は日常的にも車椅子を使用している女性だそう。脚を動かすことのできないクロエが、どうにか自分のいる現実から車椅子で逃れようとする様子のスリリングさは、圧倒的なリアリティがあります。映画界において障がいをもった俳優が、そのままの役を演じるのはまだ多くないですが、エンタメ的な要素のある作品でその姿勢が見られるのは嬉しいことだと思います。
そして、『アメリカン・クライム・ストーリー』でゴールデングローブ主演女優賞を受賞したサラ・ポールソン。娘を狂気的に愛する母ダイアン役を怪演するのですが、また圧巻の演技すぎて…。彼女がアップの画面になるたび、正直ゲンナリします。それほどに狂気じみているんですよね。幽霊よりも、人間の方がいつだって恐ろしいものですよね。主人公の少女の気持ちがとても強くて、その辺りは勇気をもらえますし、彼女とともに走り続けた感覚になるので、見応えは抜群!しかしながら、このお母さんは怖すぎますし、そこから逃げる感覚を擬似体験するだけで、これからエンジンをかけたい新年度にこの映画に体力を吸い取られてしまう可能性があります。なので新年度には向かないかもしれません。面白い作品なので元気の貯金がある時にどうぞ!

2.映画『LAMB/ラム』

人里離れた場所に住む羊飼いの夫婦。ある日、羊から生まれたのは…?

相反する感情が揺れ動き、ストーリーにもモヤモヤが残る人も?

2022年に公開され、映画ファンの間で人気を博したキャラクターがいます。それが『LAMB/ラム』という映画に登場する、ハイブリッドひつじこと“アダちゃん”です。まずは、簡単に『LAMB/ラム』のあらすじから。アイスランドの大自然に包まれた平原地帯を舞台に、人里離れた場所に住む羊飼いの夫婦を描いたちょっぴり奇妙なアイスランド&スウェーデン&ポーランド合作のネイチャー系スリラー映画になっています。羊から生まれた羊ではない何かを、羊飼いの夫婦が完全にまるで我が子のように育てあげます。ちなみにその生き物の特徴は、羊といえば羊そのものですが、肉体はどうなっているかというと…(説明の難しさあり)。ここから先は、ちょっと伏せておきます。この羊ではない何かが、しれっと人間達に囲まれて、あたかも人間のテンションで暮らしているのが面白い。最初は人間世界になじんでいるこの生き物に違和感を抱くのですが、気づけば愛らしさに虜になっているんです。でもやっぱり不気味さがどうしても拭えない生き物。「可愛いの?怖いの?可愛いの?怖いの?」と相反するふたつの感情を交互に繰り返してなんだか疲れます。しかも雰囲気を味わうことに重きを置きながら展開される作品のため、ストーリーにもモヤモヤが残る人が多いです。裏腹に、また考察する楽しみに恵まれている作品ですが、清々しい気持ちの新年度にはなんとなく向きません。
羊から生まれた謎の生き物アダちゃんを育てる2人の姿を描いたこの映画は、第74回カンヌ国際映画祭の「ある視点部門賞」を獲得しました。家族とはなんだろうと考えさせられます。観賞後しばらくジンギスカンなど羊肉を食べたいとは思わなくなりますが、とにかく作品の世界観は独特で興味深く、「?」が続くことでちょっとした想像力が育まれる予感です。ダークファンタジーが好きな人にはおすすめしたい映画です。

3.映画『灼熱の魂』

亡き母の遺言を辿っていった先には…?観賞後の重さが尋常じゃないリアルエピソード

忙しく精神的余裕がないときに見ると、圧倒されて立ち上がれなくなるかも

ついにこの映画を紹介する時が来てしまいました。PrimeVideoで見られるなんて…!今まで数千本以上の映画作品を鑑賞してきた私ですが、おそらくこの映画は10本の指に入るほどの衝撃が走った映画で、生まれてはじめて映画の後に座席からしばらく立てなくなりました(実話です)。ヴェネチア国際映画祭最優秀作品賞を受賞したヒューマン・ミステリーで、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされ、カナダで最も権威のあるジニー賞(カナダ版アカデミー賞)を8部門受賞しました!後に大作『DUNE/デューン 砂の惑星』や『ブレードランナー2049』を手掛けることになるドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が、世界的に高い評価を受けた衝撃作。世界から賞賛される監督の初期作です。
あらすじは双子の姉弟の母親が、謎めいた2通の手紙を遺して他界するところから始まります。亡き母の遺言に従い、母の過去から自分達の出生の秘密を知っていく姉弟。中東の宗教問題についても描かれていて、とにかく見応えがありますし、遺書により、自分たちのルーツや知らなかった真実を知らされてく物語は多々ありますが、この手紙に隠された秘密はちょっと他のミステリー作品とは比べものにならないほどでした。これほどまでに煽りの表現をしても、遜色ないくらいに“インパクトのある”映画です。骨太すぎる作品ゆえに、観賞後にくる重さは、生理2日目のズーンとした感じが延々に続くような…そんな体感です。なので晴れやかな新生活シーズンには向きません。それでも、今後こんな映画とは出合えないかもしれないという、圧倒される感じにも包まれますし、謎解きものとしても秀逸です。昨年、デジタルマスターでも再公開され、大変話題になった作品ですので精神的に余裕がある時に観てください。

4.映画『エスター』

できればあらすじも口コミも見ず、何の前情報もなしにいきなり観てほしい映画

とんでもない疲労感に襲われるので、翌日の寝坊に注意!

できれば何の前情報もなしに、いきなり観てほしい映画です。あらすじも口コミも見ないでこの物語と対峙してもらえたら嬉しいです。孤児院の少女エスターを養子として迎えたコールマン家で起こるサスペンス・ホラーで、カルト的な人気を誇り、今も語り継がれる名作です。さて、エスターという少女ですが養子の受け入れ先となった家族に引き取られてから、最初は良い子にしているのですが、徐々に怪しくて不気味な行動ばかりを繰り返すようになります。あまりに不自然な行動が多くて見てるだけで、正直かなりの疲労感に襲われますので、新生活シーズンには向きません。以前、紹介した友人は面白さと裏腹に作品から醸し出される緊張感で疲れてしまい、翌日寝坊をしたと苦情をもらったことがあります。しかし“今度は何が起きるんだろう…”と気づけばエスターが目が離せない存在になり、この物語にグイグイと引っ張られていきます。のちに明かされる秘密には「マジかよ」と叫び続けてしまうはず。エスターを演じたイザベル・ファーマンも素晴らしく、10歳の少女の怪演に注目。あの『羊たちの沈黙』(1991年)のレクター博士を役作りの参考にしたそうで、目が離せません。そして先月から、実に13年ぶりに続編『エスター ファースト・キル』が公開されたのでお伝えしておきます。配信で1作目をみて、劇場に公開中の続編を見にいくプランはなかなか面白そうです。そしてこの続編でも23歳(撮影当時)と大人の女性になったイザベル・ファーマンが、またしてもエスターを続投!23歳になった彼女が10歳を演じるという、サプライズキャスティングに映画ファンは湧いたのですが、そんな偉業を成し遂げた女優魂にも新作では注目ですね。

いかがでしたか?「新生活のシーズンに観てはいけない映画」を映画ソムリエ・東紗友美がお届けしました。
本当はアラサー世代の女子におすすめで、恋愛や人生の参考になる名作や自己啓発してくれる映画などを厳選しているので、新生活シーズンではなく、気持ちに余裕があるタイミングで見ることをおすすめします!
映画との出会いは一期一会。タイミングを意識した映画選びを。素敵な新年度を過ごせますように。

今回の記事「大人女子のための映

今回の記事「大人女子のための映画塾」を執筆したのは…
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
http://higashisayumi.net/
Instagram:@higashisayumi

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