学校の漢字テストで出題すると、読み間違いが多い言葉があります。会社などでも、日常会話の中に登場する言葉の中で、読み間違いやすいものがあります。いくつか紹介していきます。
1.「錯綜」
最初は「錯綜」です。「情報が錯綜する」のような形で使い、「複雑に入り組むこと」の意味を表す言葉です。漢字「綜」は常用漢字2136字に含まれませんが、会議などでも、混乱した状況を表現する時には、必ずと言っていいほど出てくる言葉でしょう。さて、何て読みますか?
まず、「サクシュウ」と読んだ方は間違いです。常用漢字「錯」は「錯覚(サッカク)」でおなじみですね。ここでは「サッ」と音便化(発音変化)していますが、もともとは「サク」です。「倒錯(トウサク)」などでおわわかりですね。問題は後ろの「綜」です。漢字右側の「旁(つくり)」の部分に「宗」があります。この字の音読みは「宗教」のように「シュウ」のほうが一般的ですが、「宗家(ソウケ)」「宗匠(ソウショウ)」などは「ソウ」ですね。「錯綜」の「綜」も「ソウ」と読みます。つまり正解は「サクソウ」です。
なお、「綜」は「ひとつにまとめる」「まじる」の意味を持ちます。今回の「錯綜」は「まじる」のほうですが、会社名などで「綜合」を見たことがありませんか。これは「まとめる」、つまり、「総合」と同じ意味なのです。
2.「斟酌」
次は「斟酌」です。「未成年であることを斟酌する」のように使います。「斟」が常用漢字ではありませんが「酌」は「晩酌(バンシャク)」や「情状酌量(ジョウジョウシャクリョウ)」などで使います。さて、何と読むでしょうか?
「トシャク」と読んだ方が多いのではないでしょうか。「斟」の字の右側には「斗」があります。たしかに、「斗」は「北斗(ホクト)七星」のように「ト」と読みます。しかし、「斟」の読みは左側の「甚」です。この字の音読み「シン・ジン」から来ています。ですから、正解は「シンシャク」でした。「斟」も「酌」もともに「くむ(液体を器にすくい取る)」と訓読みしますから、「斟酌」の意味は、「相手の事情や心情をくみとること」になります。
3.「凄絶」
最後は「凄絶」です。「凄絶な戦いを描いた映画」のように使います。意味は何となくわかりますね。さて、何と読むでしょうか?
これは「ソウゼツ」と読んだ人が多いはずです。と言うのも、同じような状況において使われやすい「壮絶(ソウゼツ)」という言葉があります。これと混用してしまうのでしょう。問題の「凄絶」の読みは「セイゼツ」でした。
ところで、「凄絶」「壮絶」ですが、実は意味が違う言葉というのをおわかりでしたか? 「凄絶」は「たとえようもないほどすさまじいこと・悲惨なこと」です。それに対し、「壮絶」は「きわめて勇ましいこと」です。「凄」は「すさまじい・いたましい・恐ろしい」、「壮」は「元気・強い・勇ましい」の意味です。同じようなケースで使ってしまいますが、漢字の意味を調べてみれば、その違いがわかりますね。
超難問漢字クイズや漢字検定1級に出題されるような難解な漢字も時にはよいのですが、「読み間違いやすい漢字を正しく読む」を基本コンセプトとしている連載では、今回紹介したようなものは、特にぴったりだったかと思います。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「もっと1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)