今回は、小学校で習うやさしい漢字のちょっと難しい訓読みを紹介します。常用漢字の中には、表内に示された訓読み以外に別の訓読みを持つ漢字があります。本来、訓読みは、漢字が中国語として持っている意味をもともとの日本語で表現した「翻訳」なので、漢字の持つ意味さえ間違っていなければ、どんな読み方でも「正解」となり得るわけです。そうした複数の訓読みを持つ漢字の読み分けは、その漢字に付けられた送りがなや、あるいは文脈で読み分けます。では、始めましょう。
1.「開ける」
最初は「開ける」です。これは「開(あ)ける」、または「開(ひら)ける」がすぐに思い浮かびます。「ビンのふたを開ける」なら「開(あ)ける」ですね。「輝かしい未来が開ける」なら「開(ひら)ける」でしょう。
では、「ボタンがはずれてシャツの前が開ける」の「開ける」は、何と読むでしょうか?
正解は「開(はだ)ける」です。「着ている衣服の前が乱れて開く」という意味では、このように読みます。「胸を開ける」のように、「開(あ)ける」「開(はだ)ける」どちらでも読めるケースも実際多いのですが、例文は「前が開ける」なので、「他動詞(~を~する)」の用法しかない「開(あ)ける」ではおかしいですね。
2.「響めく」
次は「響めく」です。常用漢字表の「響」に示された訓読みは、もちろん「響(ひび)く」ですね。しかし、例文「ファインプレーに球場が響めく」の「響めく」は「めく」と送りがなが違います。さて、何と読むでしょうか?
正解は「どよめく」でした。「響(どよ)めく」は、「音が鳴り響く・大勢の人が思わず上げる声でざわめく」という時に使います。
3.「設える」
最後は「設える」です。常用漢字表「設」の訓読みは、「設(もう)ける」が示されています。では、「山小屋風にリビングを設える」の「設」は訓読みで何と読むでしょうか?
正解は「設(しつら)える」でした。「設(もう)ける」と「設(しつら)える」は「作る・設置する」という意味で共通する部分を持つのですが、「設(しつら)える」のほうは「飾り付ける」というニュアンスが強くなる傾向があります。もちろん、送りがなで読み分けは可能なのですが、微妙な違いを覚えておきたいですね。
なお、常用漢字外の「誂」を使った「誂(あつら)える」というのがあり、この「設(しつら)える」と発音が似ていて間違いやすいのですが、「誂(あつら)える」は「注文して望み通りのものを作る」という時に使う言葉です。
いかがでしたか?本来、常用漢字表にない読み方は、「表外読み」と呼ばれ、目にする機会もそう多くはないのですが、漢字そのものが持つ意味を理解することで、違った読み方が身に付きます。そうなることで、日本語の豊かな使い手となれるような気がしませんか?では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「難読漢字の奥義書」(草思社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)