なかなか出口が見えないコロナ禍の昨今、「熱」という漢字を目にしない日はありません。この「熱」という漢字は小学校で習う教育漢字で、常用漢字表で示される音読み「ネツ」は、「発熱」「平熱」などの熟語に使い、訓読みは「熱(あつ)い」と普通には読みます。しかし、実は、常用漢字表に示されるこの「熱(あつ)い」以外にも、「熱」には別の読み方が存在します。
今回は、そうした複数の訓読みを持つ「熱」を集めました。では、始めましょう。
1.「熱る」
最初は「熱る」です。「熱(ねつ)る」「熱(あつ)る」ではありません。さて、この送りがなの場合は、何と読むでしょうか?
例文は、「満員電車で顔が熱る」です。「顔や体が熱を帯びて熱くなる・赤くなる」という意味で使います。正解は「熱(ほて)る」でした。
なお、この「ほてる」は、「火照る」と書くこともあります。これは「火(ひ→ほ)」の変化で、「火影(ひかげ→ほかげ)」「火垂る(ひたる→ほたる)」と同様の変化です。
2.「熱り立つ」
次は「熱り立つ」です。前の問題で「熱(ほて)る」を学びましたが、今度は「熱(ほて)り立つ」ではありませんよ。「怒って興奮する」という意味で、「審判の判定に観客が熱り立つ」というような感じで使います。さて、何と読むでしょうか?
正解は「熱(いき)り立つ」でした。
3.「人熱れ」
最後は、前の応用で、「人熱れ」です。例文「人熱れでむっとする電車の車内」などのように、「熱(ほて)る」と似たようなケースで使うことの多い言葉です。さて、何と読むでしょうか?
正解は「人熱(ひといき)れ」でした。「多くの人が集まって、その体熱やにおいがいっぱいに立ちこめること」です。人間だけではなく、「草熱(くさいき)れ」ようにも使います。
4.「熱り」
今回はもうひとつ。「事件の熱りが覚めるまで姿を隠す」の「熱り」は何て読むでしょうか?
正解は「熱(ほとぼ)り」でした。「事件などがおさまったのちまでも残る世間の関心」の意味で使います。なお、熟語「余熱」はもちろん「ヨネツ」と読みますが、「ほとぼり」と読むこともできます。
今回の「熱」のように、簡単な漢字でも常用漢字表に示される以外の読み(いわゆる「表外読み」)が複数ある場合もあるということがわかりましたね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「もっと1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)