今回は久々に「慣用句に関する漢字の読み方」を紹介します。その「慣用句」自体は聞いたことはあるけれど、漢字表記にするとその読み方が難しかったり、含まれる単語そのものの意味は、実はよくわからなかったりするものを集めました。
1.「科を作る」
最初の問題は、「科を作る」です。何と読むか分かりますか? また、「科」って何でしょうか? ヒントがわりの例文を提示します。「彼女は、意中の男性の気を引くために科を作った」
もちろん「かをつくる」ではありません。常用漢字表に「科」の読みは、音読み「カ」しかありませんが、表外訓で「とが・しな・しぐさ」の訓読みがあります。この慣用句の場合は「しなをつくる」と読みます。
では、「しな」とは何ですか? 「しぐさ」と同じく「動作」を意味する語ですが、慣用句「科を作る」ではそれを「意識的にそれをする」ことから、特に、「媚(こ)びる」ときに色っぽいしぐさをする時に使います。
2.「鎬を削る」
次は、「鎬を削る」です。「鎬」は常用漢字外となりますが、何と読むか分かりますか? また、「鎬」って何でしょうか? 例文を示します。「この選挙区は、与野党が鎬を削る激戦区だ。」
「こうをけずる」ではありません。正解は「しのぎをけずる」と読みます。「鎬(しのぎ)」とは、「刀の刃と峰(反対側の背の部分)との間を一線に走る、少し高くなった部分」であり、激しい斬り合いの際に、「互いの鎬を削り合うくらいに激しく交戦する」ことを「鎬を削る」と言います。勘違いしやすいのですが、相手を「凌(しの)ぐ=越える」という「しのぎ」ではありません。
また、同じような激しい交戦シーンで使う慣用句に「鍔迫り合い(つばぜりあい)」と言いますが、この「鍔」は「刀の柄(つか)と刀身との間に挟む板状の金具」のことです。漢字も意味も似ているので、間違いやすいのではないかと思います。
3.「薹が立つ」
最後は、今回一番の難読語「薹が立つ」です。こちらも「薹」が常用漢字外です。「17画」と画数はそれほど多いわけではないのですが、見慣れないせいか、手強そうです。では、例文です。「彼は、新人というには、いささか薹が立っている感じだ。」
「薹」という漢字を、皆さんが見かけることがあるとしたら、やはり「蕗の薹」ぐらいでしょうか。春の息吹(いぶき)を感じさせる、ほろ苦い味の山菜、そう「ふきのとう」です。「薹」は、この「蕗の薹」のように「蕗」などの花茎(カケイ)のことです。それが伸びて固くなると、食用には適さなくなります。ここから「薹が立つ」とは「とうがたつ」と読んで、「人の盛りが過ぎる」という意味にも使うようになりました。
早いもので6月になりました。陰暦の異名では「水無月(みなづき)」ですね。雨が降ることが多い月なのに、「水が無い」のはなぜ? と思ったことがある方も多いでしょう。諸説ありますが、稲作に関係しているものが多いようです。まず、「無(な)」は、「ない」ではなくて、助詞の「の」であり、「水の月」を表すというもの。水田に水を引いた情景です。逆に、「無」は、やはり「ない」で、水田に水を引くことで、それ以外の場所では水がなくなることを表すというのもあります。読めても意味は知らなかった、という漢字も多いですよね。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新字源」(角川書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「難読漢字辞典」(三省堂)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)