カツセマサヒコ「それでもモテたいのだ」【元カノのSNS見ようと思ったらさ、ブロックされてたのよ】

男ってバカですよね。と冒頭から

男ってバカですよね。と冒頭から大きめの主語で失礼したいくらいバカな出来事があった。ちなみに男性陣の多くは、「男ってバカだからさ」と言うことでなぜか愚行も笑って許してもらえると思っている節があるが、今回はそんな免罪符的に使いたいんじゃなくて本当にただバカなことをしたものだと今になって情けなくなっているから、そのままの意味で「男ってバカですよね」と反省しつつ書き散らしている。「元カノのSNS見ようと思ったらさ、ブロックされてたのよ」

友人のその一言が発端であった。三十路を過ぎた男六人で、昼間っから英国風パブ「HUB」にいた。結婚式の披露宴に出席し、二次会までの時間つぶしだった。昼から飲める店はないかと探したところで、たどり着いたのが「HUB」だった。

立ち飲み用の丸テーブルを男六人で囲んで、他愛もない話をした。懐かしいなあ。あいつも結婚かあ。最近どうなの。冷蔵庫買ったんだけど家に入らなくてさ。みたいな、本当に他愛もない話だ。

その話の合間に、ポコッと隙間が空くように会話が止んだ瞬間があって、ああ、酔ってるなこれ、とか自分の視界の揺れ具合を確認していたら、さっきの一言が飛び出した。

元カノから、ブロックされている。

私を含め、その場にいた友人たちはみんな一斉に彼に好奇の目を向けた。「てかお前、この歳になってもまだ元カノのSNS見てるわけ?」「てかてか元カノって、いつの元カノ?」「てかてかてか、お前、結婚したんじゃなかったっけ?」

怒涛の質問が飛び交い、急に「HUB」店内は記者会見会場と化した。彼は長旅から帰ってきたばかりの宇宙飛行士のように一つ一つ丁寧に回答を始め、「要約すると、結婚してるけど、たまに元カノのSNSを見ていて、でもこの前ブロックされたってことです」と締めた。

なんでドヤ顔なんだよ。

全員でツッコみながら、これは面白い話が来たなあと、内心思ってしまった。ブロックした元恋人や彼の配偶者の気持ちを考える冷静さはとうに失われ、私たちは口火を切られた元カノトークにどデカい花を咲かせ始めた。

「なんでブロックすんのかね。元カノブロックしたことある?」「ある」「え、あんの!?」「ないの?」「ないない」「なんで?」「好きだから」「キモ」といった具合に、話は怒涛の広がりを見せる。そして恐ろしい一言が飛び出したのは私がトイレから戻ってきてすぐだった。

「じゃあちょっとさ、全員元カノ検索してよ」

なんでだよ。誰が得すんだよ。傷つくだけだろうがよ。発端となった友人に罵声を浴びせるが、「俺だけ傷ついているのはおかしい」という謎理論によって、本当に全員が元恋人を検索し、ブロックされているか確認することとなってしまった。題して「元恋人からSNSブロックされ選手権」開幕である。

各々が丸テーブルの上にスマホを置くと、じっと画面と向き合い、元カノアカウントを探す。なぜか王者のような貫禄を見せつけているのは既にブロックが明らかになった発案者だけであり、挑戦者はこれまで味わったことのない、かなりビミョーな空気を味わった。

試合が動いたのは時間にして開始から三分ほど経ったころで、全員がニヤニヤと沈黙を貫くなか、私の右隣にいた友人が突然、大きな声で叫んだ。「されてる!」

その瞬間の、大爆笑を想像してほしい。本当に男ってバカですよね。全員がのたうち回るほど笑ってしまったのである。

「いや、本当にされてる。びっくりした。知らなかった」とメソメソと落ち込み出す友人。それを励ますチャンピオン。最悪の構図を見て「辞退する」というプレイヤーが続出し、この選手権はかなり強引にお開きになった。

どうしてわざわざこの話を連載記事で書こうと思ったのか。やはり男ってバカですよね。

この記事を書いたのは…カツセマサヒコ

1986年、東京都生まれ。デビ

1986年、東京都生まれ。デビュー小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)が大ヒットを記録し、2021年12月に映画化。二作目となる小説『夜行秘密』(双葉社)も発売中。

イラスト/あおのこ 再構成/Bravoworks.Inc

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