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カツセマサヒコ「それでもモテたいのだ」【ちょっとしたパーティ」はどこで開かれるのか】

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カツセマサヒコ「それでもモテたいのだ」【人を深く信用するのが、昔から苦手だ】

ファッション誌で連載を持たせて

ファッション誌で連載を持たせてもらっている身でありながら、服にあまり詳しくないのがコンプレックスである。大体のブランドはまず読み方を調べるところから始まる。読み方がわかっても、今度は発音のイントネーションがわからなくて、どうしても口に出せない。
自分の着る服についても、安っぽく見えなければそれでいい。好きなものを好きなように着るのが一番だと思っている。ただ、こちらが流行を意識せずとも、世のアパレルショップは時代に合わせて商品を並び替えるわけで、気付けば数年続いたビッグシルエットブームに甘えて、私の体型も少しだらしなくなった。
そうしてなんとなく時代の影響を受けながら服選びをするのだけれど、相変わらず不得意なのが、アパレル店員さんとのコミュニケーションである。アパレルショップにいる時、なんとなく、ひとりでいたいと思う。家に眠っている洋服たちのことを思い浮かべながら、どの組合せが合いそうか、ぼんやりと考えている時間が好きなのだ。だから、欲しいものが決まっていようがいまいが、できれば誰からも話しかけられず、じっくりと目の前の洋服たちと向き合っていたい。いつもそう思っている。
しかし、そんな私の気持ちはどうしたって店側に届かず、店員さんはこちらを視認するなり、獲物を見つけた肉食獣のようにジワジワと距離を詰めてくる。あの時の「別にワタシ、アナタのことなんてまったく見ていませんから。少しも気にしていませんし、どうぞご自由に、気の済むまで店内を見ていってくださいね」と、無関心を貫くことを固く決意したような表情。その一方で私の姿を決して視界から外さないように、絶妙な距離を保ちつつ移動する軽妙なフットワーク。あの姿を想像するだけでもう、息が苦しい。
こちとらサバンナのシマウマ。自分が狙われてることくらい、とっくにお見通しなわけである。そして、冷静に考えるとアホでしかないのだけれど、シマウマとなった私がやることはただ一つ。そういった店員さんの視界から逃れるために、死角を探して、店内をぐるぐると逃げ回ることだ。
もう、店で買うのやめろ!読者の皆さんからのツッコミが全方向から聞こえてくる。わかる。こちらもしょうもない自意識の高さに満身創痍だ。だが、弱って足を止めた時こそ、アパレル店員さんは鋭利なコミュニケーション力の牙を持って立ち向かってくる。
「あ、その服、今季の新作なんですよー!」(別に新しいものが欲しいわけじゃないんですけど……)
「あ、それ、僕も同じの持ってるんですよー!」(別に店員さんとお揃いにしたいわけじゃなくて……)
「あ、春物のパーカ、お探しなんですかー?」(たまたま二つ連続で手に取ったのがパーカだっただけで……)
「あ、今着ている服にも合いそうですよね〜!」(いや、それだと全身が水玉模様になってしまうんですけど……)
店員さんが積極的になればなるほど、ギギギと錆びた音を立てて、自分の心の扉がゆっくり閉じていくのがわかる。ああいった場で相手のペースにのまれたら、何か変なものを買わされるんじゃないか。そう不安に駆られてしまうのだ。
その発端は、おそらく中学3年の時、原宿の竹下通りにあるBボーイ御用達のアパレルショップのお兄さんの口車に乗せられて、死ぬほどでかいワイドパンツを買わされたダサい経験からきているのだと思う。
ふと、店員さんから逃げながら店内を見回すと、薄手のジャケットが目に入った。何色のインナーでも合わせやすそうだし、これからの季節に活躍しそうだと思った。そこにすかさず店員さんが現れて、自慢げに口を開いた。
「あ、それ、ちょっとしたパーティにも着ていけるやつでー」(店員さん、その「ちょっとしたパーティ」って、どこで開かれてるんですか?)

この記事を書いたのは…カツセマサヒコ

1986年、東京都生まれ。デビ

1986年、東京都生まれ。デビュー小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)が大ヒットを記録し、2021年12月に映画化。二作目となる小説『夜行秘密』(双葉社)も発売中。

イラスト/あおのこ 再構成/Bravoworks.Inc

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