【宝塚】ネタバレあり!礼真琴さん率いる星組公演『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』を観てきました|ヅカオタ編集Mがアツく語る⑯

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withコロナ時代に少しずつ活気を取り戻しつつあるエンタメ業界。『宝塚歌劇』もその影響を受けつつ、出演者とファンの熱い思いにより連日公演を続けています。この機会に宝塚デビューしたい!というCLASSY.読者の方に、ヅカファン歴20年の編集Mがその魅力を好き勝手にご紹介します。
今回は、礼真琴(れいまこと・95期)さん主演の星組公演について。この公演は2番手男役スターの愛月ひかる(あいづきひかる・93期)さんの退団作品でもあります。悲喜こもごもの感情に揺さぶられ続けた3時間でした。まずはお芝居から語っていきたいと思います。

お芝居:『柳生忍法帖』

【感想】
お芝居序盤から「ビジュアル最強な歴史アクションゲーム」感満載でした。主人公が隻眼の剣豪という時点で格好いいことは約束されていますが、ヒロインが妖艶な美女であり、とびきり強くて華やかな七本槍という敵の精鋭チームがいて、その頭目が年齢不詳の美しい金髪ロングヘアの男性である…という時点で、ハイ大優勝!という感じでした。次から次へと現れる顔面偏差値の高さにひれ伏しそうでしたが、気になって漫画の芦名銅伯と七本槍を調べたところ、全然方向性が違っていて面白かったです。そこは宝塚らしい「美」路線でいったんだな…と思いました。大野先生、ありがとうございました。

そんな見た目のハイレベルさはさておき、柳生十兵衛という主人公は、内面も本当に格好いい男性です。十兵衛の格好よさを裏付けているのは、ずば抜けた強さと、そこからくる精神的な余裕。「才能も身分も、何もかも持っているのに、唯一欠けているのは立身出世への欲」という彼のキャラクターは、どこか演じている礼さんにも通ずるところがありそうで、それがまたこの役に説得力を持たせていた気がします。私が今回もっとも印象的だったのは、礼さんの十兵衛が醸し出す”朗らかな哀愁”でした。それは今までの礼さんの持ち味とは少し違ったもので、大人の男性の色気ともとれるもの。これを引き出した時点で、この『柳生十兵衛』をいまの星組で演じた意味が大いにあったと思います。

個人的な印象ですが、大野先生の描く主人公は、明朗快活な「陽」タイプの男役スターと相性がいい気がします。編集Mが最初にそう感じた先生のバウホール作品『更に狂はじ』の時と、同じ感動が蘇ってきました。明るく闊達な男役スターは、万人に愛される正義の主人公が似合いますが、時に一面的なキャラクター造形になりがちです。その点、大野先生の作るキャラクターは、明るさや前向きさ、主人公らしい芯の強さは残しつつ、きちんと人間らしい心の影の部分を描いているので、ただの正義の味方で終わりません。劇中で十兵衛が歌う「覚悟」という曲は、俗世を捨て剣の道に進む彼の孤独さや、それを前向きに受け止めている強さ、といった十兵衛の心の機微が、すべて詰められていました。ただ「陽」なだけでは終わらない、その裏にあるひそやかな繊細さに心を掴まれました。

そして編集Mが以前から注目していた愛月ひかるさん。先日、この公演で宝塚を退団すると発表されたときは、ショックでしばらく呆然としていたのですが、星組へ組替えした時点でもう退団は決めていた、というご本人のインタビュー記事を読んで、どこか吹っ切れて心穏やかになった自分がいました。卒業を目前にした愛月さんは、終始光り輝く美しさと存在感で、ラスボスのはずなのに「この人は実はいい人なのではないか」という気持ちが拭えませんでした。本当はもっとドロドロした、醜い感情が根底に渦巻き、それが長い年月を経て妖怪のようになってしまった男だと思うのですが、ここへきて愛月さんの胸の内が卒業する人ならではの清らかさに溢れているのか、なんだか銅伯が清廉潔白な人にも見える…という、不思議な体験をしました。褐色肌の男らしい十兵衛と、色白の美しい銅伯、というのは本当に礼さんと愛月さんならではの対比だと思います。芦名一族の再興を悲願としている銅伯ですが、自身の人生の美学を、なにかしらの形で継承したいという、愛月さんの銅伯ならではの野望でもあるような気がしました。あと黒髪と金髪両方のロングヘアを見せていただいて幸せでした。

ヒロインのゆらはトップ娘役の舞空瞳(まいそらひとみ・102期)さん。芦名銅伯の娘で、その美しさゆえに人形のように父の権力争いに利用され、大名の愛妾として暗躍する役どころ。十兵衛と出会い、「強きを挫き、弱きを助ける」男性を知って彼に初めて恋をしますが、最期は十兵衛をかばって死んでしまう哀しい女性です。ゆらは短い人生の中でも相当色濃く男女の色欲を経験した人です。そういう女性が最期にようやく本気の恋を知った、という悲壮感を、もう少し演出で見せてもよかったのではないかと思いますが、舞空さんらしい真っ直ぐとした十兵衛への愛情が伝わってきました。凛とした美しい強さは舞空さんの持ち味ですが、いつか己の行動を恥じたり、後悔したりするような、人間らしい脆さを見せる役も見てみたいとひそかに思っています。

七本槍ひとりひとりについてもきちんと設定されているので、誰か「推し」を見つけるもよし(個人的には極美慎(きわみしん・100期)さん演じる香炉銀四郎が、美しいサイコパスでよかったです)、悲劇的な運命を辿る少年たち(演じてるのが可愛くて芸達者な娘役さんで目にも優しい)に思いを馳せとことん涙するもよし…という、色んな側面の詰まったお芝居でした。下級生まで全員にきちんと見せ場を作るぞ!という大野先生の気合いなのかと思いますが、とにかく登場する人が多いので、Blu-rayなどで複数回観ることをオススメします。でも一回でも、とりあえず美しいし格好いいものを観たな!!という満足感は得られます。

ショー:『モアー・ダンディズム!』

岡田先生の大人気ロマンチックレビューシリーズ。私もご多分にもれず大好きですが、ダンディズムは前作の「ネオ・ダンディズム」に続き同じ星組での上演で、ことさら嬉しく観劇しました。岡田先生のレビューといえばクラシカルな美しいレビューの世界観と、躍動感あふれる群舞場面が見所。今回もそこはちゃんと盛り込まれています。そのひとつひとつを語り尽くしたいところですが、まずはこのショーに出演するために生まれてきたような愛月さんについて語ろうと思います。

愛月さん×ロマンティックレビューの相乗効果は絶大で、プロローグのあと「おもい出は薄紫の帳の向こう」を歌う姿も、「ゴールデン・デイズ」での軍服姿も、浄化作用でもあるんじゃないかと思うほど美しかったです。ただ花の名前を言っているだけなのに泣ける、という状態でした。個人的に究極だと感じたのは、往年の名場面「キャリオカ」。音波みのり(おとはみのり・91期)さんとのダンスは、頼むからこのまま宝塚音楽学校の教科書にのせてほしいと心底願いました。燕尾服の尻尾まで、スカートの裾まで、重力を失って意思を持ったのではないかと思うほど、何もかもが完璧でした。あの場面だけでチケット代は元が取れます。編集Mは『神々の土地』のラス・プーチン以来「この先なにがなんでも愛月さんが幸せになりますように」と思うようになったのですが、最後に涙が出るほど美しい衣装に身を包み、これぞ宝塚!というレビューでご卒業を迎えられて、本当に本当に嬉しかったです。

さらに「ハードボイルド」というこれまた名場面があり、こんな出血大サービスが許されるのか、と思う展開。ここは礼さんの男くささが最高ですが、そんな礼さんをオペラグラスで追っていたら、その後ろで踊る綺城ひか理(あやきひかり・97期)さんが、目があったらしいお客さんにふっと微笑みかけてるのを目撃してしまい、オペラが揺れました。そういえば綺城さんはこのハードボイルドの初演花組の出身だった…と気づいて、さらに震えました。花男×スーツなんて相当まずいのに、そこに星組のDNAが混じると、たぶん、無双になれるんだと思います。

他にも前述した群舞場面「ミッション」(音楽もダンスもダイナミックで感動)、頼んでないのに星組生が銀橋で客席を次々釣ってくれる「テンプテーション」など、一生クライマックス!みたいなショーでした。個人的にツボだったのが、輝咲玲央(きざきれお・92期)さんと、愛月さんと同時に退団される漣レイラ(さざなみれいら・94期)さんの「キャリオカ」。お芝居との差が激しくて初心者の方には同一人物に見えないんじゃないかと思うところまで含めて、ぜひチェックしていただきたいです。

最後に、終盤のデュエット場面「アシナヨ」について。さんざん他場面について語っていますが、それまでのすべての記憶が吹っ飛びそうなくらい、素晴らしかったです。まず大階段で礼さんが一人で歌い、やがて舞空さんと愛月さんが登場、そのまま愛月さんの歌で礼さんと舞空さんが踊る…という、3人体制でのデュエダン場面。トップコンビと二番手でデュエダン場面を作るのは珍しいことではないのですが、今回は観ながら、今まで感じたことのない気持ちになりました。礼さんと愛月さんが客席に向かって微笑むたび涙が出ました。礼さんが、愛月さんへ最大の敬意をもって接しているのが端々からわかって、さらに泣きました。時空が歪んでもいいから、色んなことが、なんとかならなかったのか。そう思って、本当に泣くしかできない舞台でした。

十兵衛を見ていても感じましたが、礼さんは物事を俯瞰できる、大人の優しさを持った人だと思います。才能に恵まれた人は否応無しに自分の才能に奉仕しないといけない、というのは上田久美子先生の言葉ですが、宝塚のスター、特に下級生の頃から抜擢を受けてきた人を見ていると、いつもこの言葉が頭をよぎります。礼さんその中でも、自分の運命をまっすぐ受け入れてきた人のような気がします。愛月さんは礼さんのそういう、あえて口に出しては言わない部分を、しっかり汲み取っているのではないかと思いました。それは二番手でありながら上級生であるという、現体制のなせる業でした。どうにも覆せないスター制度ではあれど、礼さんの隣に愛月さんがいたことは、いまの星組にとってかけがえのない財産だったのではないかと思います。

これからも星組を引き続き担う礼さんは、自分を追い込みすぎず、従順になりすぎることもなく、舞台の上でもっともっとオリジナルな、トップスターという人生を歩んでいってほしいです。技術があるのはそれに見合う努力をしているからで、そのことを、もっと当たり前に誇ってほしい。礼さんの類いまれな才能には、前例や、まわりに知らず知らずのうちに作られた枷を、ぶち壊して前に進む強さがあります。そして、それと同じくらい、ぶれない優しい心がある人だと思います。卒業する愛月さんの想いを受け取って、光り輝く星組のさらなる一等星になることを、切に願っています。

以上、ヅカオタ編集Mによる、星組公演『柳生忍法帖』『モアー・ダンディズム!』観劇感想でした。12/26には千秋楽ライブ配信が予定されており、愛月さんのサヨナラショーも観ることができます。詳細はぜひ宝塚歌劇団公式サイトをチェックしてみてください!

そもそも宝塚歌劇団とは?

花、月、雪、星、宙(そら)組と、専科から成る女性だけによる歌劇団。男性役を演じる「男役」と女性役を演じる「娘役」がおり、各組のトップスターが毎公演の主役を務める。兵庫県宝塚市と千代田区有楽町にそれぞれ劇場があるほか、小劇場や地方都市の劇場でも年に数回公演をおこなう。
公式サイト:https://kageki.hankyu.co.jp/
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