前回に引き続き、CLASSY.ONLINEではやさしそうではあるけれど、実は「読み間違いがちな漢字」を取り上げていきます。
1.「西下」
まずは、やさしいところから。問題文は「東海道を西下する」。この「西下」は何と読むでしょうか?
意味は「東から西に向かうこと」。特に、「東京から関西地方へ行く」時に使います。反対語は「東上」です。しかし、この「西下」は一瞬何て読むか迷ってしまうことがありませんか? 「さいげ」「さいか」「せいか」「せいげ」の中のどれでしょう。
正解は、「さいか」でした。余談ですが、長年の競馬ファン好きの私は、この「西下」と聞くと、関東馬(美浦〔みほ〕トレーニングセンターで調教されている厩舎〔きゅうしゃ〕の馬)が、関西(京都や阪神競馬場)で行われるビッグレースに出走するために移動することが頭に浮かびます。春の天皇賞ももうすぐ開催です。
2.「出生率」
次は、よく耳にするこの言葉です。「出生率の低下に歯止めがかからない」。この「出生率」は何と読むでしょうか?
これはもう、「しゅっしょうりつ」か「しゅっせいりつ」の二択ですね。「出生」の読みで問題となる「生」の音読みは、「シュツ」「セイ」の二つがあります。「ショウ」は、「呉音(日本に最も古く伝わった発音)」で、「生涯・誕生・往生」などの一部の熟語の読みで使います。一方、「セイ」は「漢音(呉音より後に伝わった、唐の都の発音)で、「生産・発生・生徒……」など、多くの熟語みで使われますね。そのようなわけで、「出生」の本来の読みは、実は「シュッショウ」だったのですが、他の熟語の読みである「セイ」に引かれて、「シュッセイ」とも読むようになっていったと考えられます。
しかし、辞書で「出生」を「シュッセイ」で引くと、「シュッショウを見よ」と誘導されます。「シュッショウ」の語釈の中に「シュッセイとも」とあります。ですから、「シュッセイ」「シュッショウ」と両方が通用するとしても、やはり本来は「シュッショウ」であり、特に、「出生率」とか「出生届」など、決まりきった熟語の場合は、「シュッショウ」と読むべきでしょう。
3.「幕間」
最後は、一見すると難問らしくないこの言葉です。「幕間にお弁当を食べる」。この「幕間」は何と読むでしょうか?
これは「まくま」じゃないの? と思ったのではないでしょうか。「昼間(ひるま)」「谷間(たにま)」とか「訓読み+訓読み」の熟語もありますからね。実は、正解は「まくあい」でした。「間」の字の訓読みは、常用漢字表には、「あいだ」「ま」だけですが、表外訓として「あい」というのもあります。「山間の村」も「サンカンの村」ではなく、「やまあいの村」と読みます。なお、「幕間」は「演劇などで、一幕が終わって次の幕が開くまでの間」のことですが、これを「幕の内」とも言います。そう、問題文をもう一度見てください。「幕間」に食べられるように工夫した弁当が「幕の内弁当」なのでした。
いかがでしたか。うっかり読み間違いしていたものはありませんでしたか?
学校も新学期が始まって、はや1カ月。新しい顔ぶれでの授業もようやく回り始めましたが、悩ましいのが名前の読み方。いわゆる「キラキラネーム」は、年々難解さを増していきます。今後、戸籍法改正の流れで、やがてこれらも落ち着いていくことが期待されますが、何せ今の生徒たちの命名は今から十数年前。しばらくは新学期の苦労は続くと思われます。親の思いを込めた命名の自由はあるものの、漢字本来の読み方を大きく逸脱した読めない名前は、やはり社会における「固有名詞」としては、いかがなものでしょう。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「難読漢字辞典」(三省堂)
・「100ページでテッパンの漢字力」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)