1.「矯める」
最初は、「松の枝を矯める」の「矯める」です。さて、何と読みますか?もちろん、「はし・める」ではありません。
正解は「た・める」でした。「矯」という漢字は、「キョウ」の音読みを持ち、熟語ならば、「○○矯正」というフレーズをよく目にするのではないでしょうか。
「矯」の字は、「曲がったものをまっすぐに直す・悪いことを改める」という意味を持ちます。ことわざに、「角を矯めて牛を殺す」というのがあるのをご存じですか。「わずかな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまう」という、たとえとして使います。欠点を直すのは、もちろん悪いことではありませんが、細かいところをこだわりすぎると、かえって大事な点を見失ってしまうことになりかねません。
2.「統べる」
次は、「王が国を統べる」の「統べる」です。さて、何と読みますか?音読み「トウ」はわかっても、訓読みはどうでしょうか。
正解は「す・べる」でした。「統」という字は、「トウ」の音読みを持ち、「統括」「統計」「統治」などの熟語でおわかりのように、「ひとつにまとめる」という意味があります。冒頭の例文なら、「王が国を支配する」ということですね。なお、この「統べる」は別の漢字を使って、「総べる」と書くこともでき、両者は同じ意味を表わします。しかし、「総」の字は常用漢字ではありますが、この読みは「表外読み」です。
3.「醸す」
最後は、「物議を醸す」の「醸す」です。さて、何と読みますか?「じょう・す」ではありません。
正解は「かも・す」でした。「日本酒を醸す」という例文ならば読めたという「左党(=お酒の好きな人のことです)」の声が聞こえてきそうです。この漢字は「ジョウ」の音読みを持ち、「発酵させて酒などを作る」という意味ですので、「醸造所」「大吟醸」などの言葉を、普段よく目にすることでしょう。
冒頭にあげた「物議を醸す」は、ぜひ覚えておいていただきたい慣用句です。「世間の論議を引き起こす」という意味で用いますが、「醸す」が「酒を作る」から「ある状態を徐々に作り出す」という意味に拡大解釈されています。まあ、そういう事態となる前には、何とか打つ手を考えるべきですね。
漢字には、複数の訓読みを持つものが多いわけですが、毎回紹介候補をリストアップするために、「常用漢字表」をパラパラめくっていると、常用漢字表の読みの範囲を改めて確認させられます(範囲内に含まれないものは、すべて「表外読み」ということになります)。
常用漢字表記載の読みについては、高校卒業までに一通り学ぶことにはなっています。しかし、日常生活で目や耳にする機会がそう多くはないと思われるものに関しては、実際のところ、読めないケースも多いかもしれません。では、この辺で。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第七版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「小学校で習った漢字」(サンリオ)
・「読めそうでギリギリ読めない漢字」(河出書房新社)
・「漢検ポケットでる順2級」(旺文社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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