「高校卒業程度」「漢字検定2級レベル」「常用漢字」をキーワードとして、誰もが読めないような超難読漢字ではなく、普段目にする漢字を当たり前に読めるをテーマにした、CLASSY.ONLINEでの漢字連載。今回は久々に慣用句から出題します。
1.「舌鼓を打つ」
「おいしい料理の数々をいただき、十分満足」した時に使われる「舌鼓を打つ」ですが、あなたなら何と読みますか?
「したづつみをうつ」と読んだ方が多いと予想しますが、正しくは「したつづみをうつ」です。打楽器の「鼓」ですから「つづみ」です。似たようなものに「腹鼓を打つ」というのもありますが、これも「はらづつみ」でなく「はらつづみ」です。日本語には言い間違ったり、言いやすかったりして、音の並びが入れ替わってしまうことはよくあります。たとえば、「あたらしい」という語は、古い時代には「あらたし」でした。
最新の国語辞典の中には、「したづつみ」や「はらづつみ」を取り上げ、「本来は誤りであるが今はかなり一般化している」と、「許容」とも取れる注記を付けているものもありますが、「誤り」と考える人がいるうちは、正しく読むことが大切だと私は考えています。それにしても、いくらおいしいからと言って、「舌を鳴らし」たり「腹をなで」たりするのは、いささかお行儀が悪いですね。
2.「習い性となる」
「習慣もたび重なると、ついには生まれながらの性質のようになってしまう」という意味で使う「習い性となる」ですが、何と読んでいますか?これは「性」の字を、「せい」と読むか「しょう」と読むかですね。
「習い性(ならいしょう)」という言葉が「身についてしまった習性」として国語辞典にもあるために、この慣用句も「ならいしょうとなる」と読んでしまいそうなのですが、「ならいせいとなる」が正しく、より正確には「ならい/せいとなる」と切って読むべきです。
したがって、先程の「習い性(ならいしょう)」そのものが、この慣用句を誤って続けて読んでしまったことから生まれた語です。「凝(こ)り性(しょう)」や「心配性(しょう)」のように考えられたからでしょう。そのようなわけで、「習い性(しょう)」を「その人にしみついた習慣的な行動様式」という意味で使うことは認知されたとしても、慣用句「習い性となる」となるは「しょう」ではなく、「せい」と読んでください。
3.「声を荒らげる」
「相手の言動に刺激されたりして、反発的な態度に出る」状態の際に使われる「声を荒らげる」ですが、何と読んでいますか?
「声をあらげる」という言い方をよく聞くような気がしますが、実は、正しい言い方は「声をあららげる」です。「荒」の訓読みは、「荒い」なら「あら・い」ですが、「荒らす」なら「あ・らす」と読みますから、「あ・らげる」と読んでしまうのもわかります。それに、「あららげる」だと「ら」が重なって変な感じがするのかもしれませんが、この語のルーツは、古語「荒(あら)らかなり=荒々しい様子だ」ですから、これでよいのです。ちなみに、本来は誤読と言える「あらげる」も現在「許容」となりつつありますが、これもやはり、本来の正しい言い方を知っておいてください。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「なぜなに日本語 もっと」(三省堂)
・「漢検ポケットでる順2級」(旺文社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)