CLASSY.ONLINEで恒例の「漢字に関する記事」。今回は、漢字一文字の読みを取り上げます。漢字そのものは、私たちが日常生活で主に使う漢字として定められている「常用漢字(2,136字)」の範囲内ではありますが、今回の出題の読み方は、その音訓表にはない「表外読み」です。漢字一文字で送りがなもないので、例文をヒントに、漢字の意味を考えてみてください。
1.「件」
最初は「件」です。常用漢字表では、「ケン」の音読みのみが示されていますが、この漢字の訓読みはおわかりですか。では、ヒントがわりの例文を提示しましょう。「上司から件の話で呼び出された」。これでいかがでしょうか?
正解は「くだん」です。「件(くだん)」とは、「くだり」の発音変化で、「前に述べたことを、聞き手や読者が承知しているものとして指し示す語」です。つまり、「件の話」をわかりやすく言い換えれば、「例の話」ということになりますね。「例の件」と同じことですが、だからといって「件の件(くだんのけん)」と表記すると、紛らわしいのでこれは避けたほうが無難です。
2.「屯」
次は「屯」です。常用漢字表では、「トン」の音読みだけが示されています。この漢字にお目にかかる機会は、そう多くはありません。自衛隊の「駐屯(チュウトン)地」か、日本史で勉強する「屯田兵(トンデンヘイ)」くらいでしょうか。新選(撰)組ファンなら、「屯所(トンショ)」もありですね。いずれも、「屯」は「群がる・集まる・陣営」などの意味を持ちます。では、例文です。「若者が駅前に屯する」。この「屯」は何と読みますか?
正解は「たむろ」です。ちなみに、この例文でも「屯(たむろ)する」ことに悪いイメージを持たれたかもしれませんが、もともと「集まる」こと自体に悪い意味はありません。
3.「殿」
最後は「殿」です。常用漢字表では、「デン・テン/との・どの」の音読みと訓読みの両方が示されています。このうち、「との・どの」の訓読みは、時代劇や大河ドラマでの使用例は別として、現代では文書における相手方の氏名に添える敬称として使用されてきました(この敬称としての「殿」は「目下の者に対する軽い敬意」ですので、今では「様」の使用が一般的になっています)。
さて、本題です。例文「行列の殿に立つ」の「殿」は、「最後尾」の意味ですが、これは何と読むでしょうか?
正解は「しんがり」でした。これは、「後駆(しりがけ)」の発音が変化したものです。「しりがけ」とは、部隊の最後尾で行動することですが、特に退却時においては追撃してくる敵の攻撃にさらされるわけですから、重要かつ危険なポジションでした。現在では、「殿(しんがり)負け」のように、「最下位」的な意味でしか使われなくなったこの言葉も、かつては命を懸けた重要な位置であったわけですね。
今回は、この辺で。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「1秒で読む漢字」(青春出版社)
・「国語力がメキメキ身につく本」(河出書房新社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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