ドラマや舞台で幅広い役柄を演じてきた田中 圭さんが次に挑戦するのは、イギリスでの初演から瞬く間に演劇界を席巻した超話題作『Medicine メディスン』。三人の俳優と一人のドラム奏者のみで繰り広げられるセリフ劇。すでに前売りチケットは完売と(※当日券発売予定)、期待が高まる話題作の開幕を前に2回にわたりインタビューをお届けします。
――日本でも注目を集めているアイルランド生まれの劇作家・脚本家エンダ・ウォルシュさんの最新作で、演出はこれまでもタッグを組まれてきた白井 晃さんという今回の『Medicine メディスン』ですが、最初にお話が来たときの感想を教えてください。
『メディスン』のお話をいただいた時、最初はこんなにヘビーな内容だと思いませんでした(笑)。稽古に入って、今は想像以上だなと感じています。体力的なしんどさもあり、テーマの重みや深さもヘビーです。一緒に稽古をしている二人のメアリー(奈緒さん・富山えり子さん)も体力的にきついのではないかなと思っています。慣れてきたら辛くなくなるか、もしくは疲れすぎて一言も会話がなくなるくらいになるのかな(笑)。
――すでに通し稽古をされているとのことですが、実際に演じてみて感じたことや印象に残っていることを教えてください。
台本にはすごく細かい指示が書かれていました。翻訳ということもあり、初めに読んだときはつかみにくいところもあったのですが、この戯曲はそれでもいいのかなと思いました。エンダ・ウォルシュさんは「置き去りにされている人を僕は描いてきた」とおっしゃっていて、テーマがすごく深いんです。生きるために、人が人として暮らしていくために愛情が必要だったり、理解者が必要だったり、普段僕たちが疎かにしがちな存在に焦点を当てて、「なくなってしまうとさみしいよね」ということを伝えているような意図を感じるんです。けれどお芝居はコメディの部分も多く、暗い雰囲気の演出なのに流れるのはすごく明るい曲調だったり。何分何秒でこういう動きをするという指定もすごく細かく書かれているので、混沌とさせることで抽象的な舞台に見えるかもしれませんが、エンダ・ウォルシュさんが発したいメッセージ、伝えたいことは具体的にあるのだろうなと感じました。ただ、エンダ・ウォルシュさんの最新作でありながらも、僕らは演出家「アキラ・シライ」の意志をなるべく汲み取りながら、白井さんの『メディスン』を演じたいなと思っています。
――以前の取材で、「舞台は1年に1回やらないといけない修業や筋トレのようなもの」とおっしゃっていましたが、舞台のお仕事のどんなところに魅力を感じていますか?
今は年に1回やらなくてはいけないとは思っていないです。こんなに追い込まれながら、1つの役で2時間から3時間のお芝居をみんなで突き詰める時間は日常ではなかなかないことなので、お芝居と向き合えるという意味ではとても贅沢な環境だなと思います。キャストやスタッフと仲良くなれますし、せっかくお芝居に向き合うんだったら追い込まれたほうがいいと思うんです。どうしても自分が削られていくので、役としてずっと頭で考えていたいよなと思います。本番初日から最終日まで「これでよかったのかな」と思うような、自分がつかみきれないくらい難しい役のほうがやりがいがあるなと僕は思います。
――今回の舞台はユーモアと不安という一見対極にあるような感情が入り交じる世界観ですが、難しさややりがいなどをお聞かせください。
メリハリや一瞬の切り替えは大変だろうなと思います。俳優としては見せどころになるのかもしれませんが、僕はそこにいる役を全うする、その役としてやり切ることに集中しているので、あまり意識しないようにしています。「彼はこうだからこういう感情を伝えなくては」とか「こういう表現をしなくては」というのはあまり考えないようにしています。どちらかというと彼になりきる、一人の人間を理解することの難しさなんじゃないかなと思います。
――今回は男性一人と女性二人、そしてドラム奏者が作り出す世界とのことですが、共演される俳優お二人の印象などをお聞かせください。
真面目で頼り甲斐があって、可愛らしいお二人だなと。奈緒さんとは舞台は初めてですが、映像では何度もご一緒していて、富山(えり子)さんとは前に舞台で共演させていただいています。それぞれタイプの違う二人のメアリーは面白いです。富山さんは意外と頭で考える方なんだなとか、奈緒さんは頭で考えるタイプに見えるけど意外と直感派だなとか、観察しながらも二人のお芝居のギアを踏ませてあげたいと思うし、みんなで一段階高いギアを踏めたらいいなと思っています。それができるような難しくもやりがいのある舞台だと思います。お二人は白井さんの演出でお芝居をするのが初めてで、今稽古がすごく順調に進んでいるので、これからもっとキツくなる前に僕が仮病を使って二人をお休みさせてあげたほうがいかもしれない (笑)。
――舞台のお仕事は1カ月かけてお稽古ができたり、比較的規則正しい生活ができるのがいいとお話しされる俳優さんが多いですが田中さんはいかがですか?
仕事の時間がフィックスで決まっているというのは、普段はなかなかないのでその点は嬉しいです。でもまだ今は本当に〝この舞台のために生きてる〟みたいな感じなので、稽古以外の時間でもずっと考えていますね。
――田中さんと言えばいつも明るく朗らかで飄々としたイメージですが、舞台に出られる時は緊張しますか?
緊張します、もちろん! 初日はものすごく緊張します。
――そうなんですね! 緊張した時のほぐし方はありますか?
…ないです(笑)。緊張したまま出て、間違えたりもします。度合いは作品にもよると思うのですが、どの舞台でも初日は絶対緊張しますね。
――では、2日目3日目と徐々に緊張しなくなるんでしょうか?
それが、初日だけなんです(笑)。2日目からは全くしなくなるので、前世で何かあったんでしょうね(笑)。
――今回の舞台で楽しみにしていること、そして観にきてくださるお客様にむけてメッセージをお願い致します。
ワンシチュエーションものなので観にきてくださったお客さんに不思議な空間を一緒に体感していただけたらと思います。観劇というよりは体感と思うくらい、身近に感じてもらえたらなと。今回はすごく激しい舞台になると思うので、ドラム音も激しいですし、俳優三人が生身の人間としてものすごくパワーを消耗していくので、同じぐらいお客さんも消耗するような体感をしていただけたら嬉しいです。
田中圭
‘84 年7月10日生まれ 東京都出身●‘03 年ドラマ『WATER BOYS』で主人公の親友役を務め、注目を集める。以降、多数の映画やドラマ、舞台で話題作に出演。近年の主な出演作品は、映画『そして、バトンは渡された『ハウ』『月の満ち欠け』『G メン』、ドラマ『リバーサ ルオーケストラ』『unknown』『ブラックポストマン』『おっさんずラブ-リターンズ-』、舞台『サメと泳ぐ』『CHIMERICA チャイメリカ』『もしも命が描けたら』『夏の砂の上』など。
『Medicine メディスン』
‘21年イギリスでの初演から瞬く間に世界の演劇界を席巻したエンダ・ウォルシュの最新作。これまでも彼の作品を手がけてき た演出家・白井 晃がユーモアと不安が混在する世界を表現する。出演:田中圭 奈緒 富山えり子 荒井康太(ドラム)日程:5月6日(月・祝)~6月9日(日) シアタートラム●兵庫・愛知・静岡公演あり。
撮影/杉本大希 ヘアメーク/岩根あやの スタイリング/Yoh U 取材/門脇才知有 構成/中畑有理