宝塚トップスター・越路吹雪と、長年にわたり彼女を支えた作詞家・詩人の岩谷時子の生涯を描く朗読劇『ラストダンスは私に』が12月に再演! 元宝塚スターが数多く出演するなか、4人のキャストのスペシャルインタビューを前後編でお届けします。前編では貴城けいさんと緒月遠麻さんのおふたりに今回の作品への思い、また宝塚時代の関係性についてお聞きしました。
――今回の朗読劇『ラストダンスは私に』のオファーがきたときの気持ちを教えてください。
貴城 ‘21年の初演で越路吹雪役を、今回は岩谷時子役をやらせていただきます。同じ作品で違う役にチャレンジする機会を与えていただいたことがとてもありがたいなと思ったのが、率直な気持ちです。
緒月 私は越路吹雪さん役なのですが、とても偉大な方の役をやらせていただけることにびっくりしました。でもお話をいただいたときは、大好きな朗読劇に出られるという喜びのほう方が優っていたのを覚えています。台本を読み始めたら、プレッシャーがどんどん大きくなってくると思います(※取材は11月初め)。
――朗読劇に対する思いはありますか?
貴城 朗読劇を観に行くと、言葉も動きもとてもシンプルなのに、心にずっしりとしたものを受けるんです。なので、私が演じているときもお客様の想像が広がっているんだろうなと感じられるのが大好きです。
緒月 そうなんですよ。演じている側も楽しいですよね。
貴城 動きがないぶん、言葉に集中できるところがいいのかな。
緒月 声だけで表現しないといけないので、動いて演じるときとは違う引き出しが増える感覚も好きです。
貴城 そぎ落とされた、余計なものがない中で演じられる喜びなんだろうね!
――ご自身が演じる役の魅力、演じる難しさなどもお聞かせください。
貴城 前回演じた越路さんも、今回演じる岩谷さんもどちらも有名な方ですが、残っている映像の多さは断然、越路さんなので越路さんのことはとてもイメージしやすかったんです。今は岩谷さんのことを知るために資料などを読み返しているのですが、知れば知る程偉大さを感じてしまい、緊張感が高まっているところです(笑)。どちらを演じるときもなんですが、一番大事にしたいと思っているのは二人の関係性です。越路さんなくして岩谷さんはあり得ませんでしたし、そのまた逆もしかりです。お二人がいたからこそ、日本の歌謡曲やポップスやシャンソン、ミュージカルの基盤ができました。その責任を感じながら大切に演じたいと思っています。
緒月 本当に偉大で有名で、皆さまのイメージがしっかりとある方です。なので、自由にやりすぎてイメージからかけ離れてはいけないと思っています。そんな中でも私らしさが出てくると思うので、それを受け入れてもらえるのかな?と心の中で葛藤する日々になると思います。実在の人物を演じるのって、とても難しいですよね?
貴城 本当に難しいです。真摯に役に向き合って、そこから生まれたものを大切にしたいです。それと、初演のリカ(凰稀かなめさんの愛称)の岩谷さんがとても素敵だったので、頭に浮かんでくるんですよね。私の岩谷さんはどうなるのかな?と不安になるし、わからないことだらけですが。先ほどお話ししたように、真摯に向き合って見つけたいと思います。
――今回の公演ではさまざまなキャストの組合せがあり、おふたりが共演される回はないということで残念です。気になるキャスティングはありますか?
緒月 今回は岩谷さん役がWキャストで、越路さん役が6人いるんですよね。どの組合せも楽しいと思いますし、まったく違うものになると思いますので、できる限りいろいろ観ていただきたいです!
貴城 是非、全パターン観劇してください(笑)! 私が気になるのは、緒月とリカの同期コンビ! どんな感じになると思う?
緒月 まったくわからないですけど(笑)、私も今からとても楽しみです!
――おふたりは8期違いますが、’00年から’05年まで雪組で一緒でした。当時のお互いの印象を教えてください。
貴城 緒月のイメージといったら「熱い!」です。新人公演では私の役をやってくれましたけど、一番印象に残っているのは私が主演した『DAYTIME HUSTLER』で緒月が演じた、ハスラーを斡旋するラテン系マネージャー役です。最初の出の歌を緒月が全力ではっちゃけて歌ったのが最高で! 緒月といったらあの「熱さ!」を思い出すんですよ。
緒月 ソロで歌うのも初めてでいっぱいいっぱいだったんですが、あの一曲に命をかけていました(笑)!
貴城 演技では下級生なのに包容力も温かさもあって、「緒月、やっぱり最高!」って思っていました。
緒月 ありがとうございます! かしさん(貴城さんの愛称)は、どんなに大変なことがあっても淡々としているんです。いい意味で、ですよ(笑)! 慌ててしまったときは、かしさんを見て気持ちを落ち着かせていました。かしさんはいつもゆったりされているので、「慌てる必要はないんだ」と思えるんです(笑)。改めてお聞きしますけど、緊張とかされるんですか?
貴城 いつだって緊張しているよ(笑)!
緒月 まったく緊張しているように見えないです!
貴城 緊張して、出番前に「歌詞何だっけ?」と焦ることもたまにあります。
緒月 それ、一番恐ろしいやつじゃないですか!
貴城 頭が真っ白なんだけど、「曲がかかったら口が勝手に動くでしょ」と思っていたら、「動かなかった!」って(笑)。
緒月 それ、ダメなやつです(笑)!
貴城 でも、その時頭に浮かんだ歌詞でどうにか乗り切って、後で皆に「すみませんでしたー」と謝る。
緒月 大変なことが起きても、かしさんの場合は大事にならないんです (笑)。本当にうらやましい。
貴城 だって人間だもの。香盤表とかちゃんと確認しているんだけど、皆から「次だよ!」って急かされることがよくあるんです。私としてはわかっているんだけど、皆よりゆっくりだから心配されるのかな? あ、でもこの前は香盤表を5回は確認したのに、逆に早く出ちゃった(笑)。
緒月 早く出ても、しれーっと何事もなかった顔をして戻って来られるのがかしさんです(笑)。舞台中だけでなくお稽古中も飄々としていらっしゃいましたよね。かしさんの曲数が多くて大変そうだったので皆が「大丈夫?覚えられる?」と前のめりになって心配しても、ゆったりと腰かけたまま「うーん、大丈夫」とお答えになって(笑)、次の日にはサラッと「やってきましたー」とおっしゃるんです。いつも、さすがだなと思っていました。そして、あのけだるい感じが色っぽくて(笑)、素敵だわーとなっていました(笑)。
貴城 色っぽい(笑)? ボーッとしているだけなんだよ(笑)。
緒月 いつもフラットで憧れます。
貴城 フラットだとは思う。
緒月 かしさんがいてくださるだけで安心する感覚は、岩谷さんと共通するものがありそうだなって思いました。
貴城 本当? そうだと嬉しいです。
緒月 セクシーさはそんなに必要ではなさそうですが(笑)。
貴城 そうだね、いらないね(笑)。緒月の「熱さ!」は、越路さんを演じるうえでとても大切になってくると思うよ!
緒月 そうですね! かしさんが印象に残っているという「熱さ!」を胸に演じたいと思います!
朗読劇『ラストダンスは私に~岩谷時子物語~』
宝塚トップスター・越路吹雪に人生を賭けた作詞家・詩人・翻訳家の岩谷時子の生涯。数々
のヒット曲に合わせ越路吹雪の歌声が会場に響き渡る! 岩谷時子役:凰稀かなめ/貴城けい 越路吹雪役:綾 凰華/緒月遠麻/姿月あさと/鈴木亜里紗/瀬戸かずや/古畑奈和 脚本:村岡恵理/演出:植草克秀会場:六行会ホール 期間:12月11日(月)~12月17日(日)
貴城けい
‘92年に宝塚歌劇団に78期として入団、雪組に配属。’06に宙組に組替えしトップスターに就任、‘07に退団。退団後は舞台を中心としたミュージカルやストレートプレイ、朗読劇に加え、映像の分野でも幅広く活躍。
緒月遠麻
‘00年に宝塚歌劇団に86期として入団。雪組に配属され、’12年に宙組に組替え。‘15年に退団。退団後も舞台を中心に活躍し、’23年は宝塚歌劇 雪組 per 100th Anniversary『GreatestDream』にも出演している。
撮影/杉本大希 ヘアメーク/谷口ユリエ 取材/よしだなお 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)