ようやく連日の猛暑日からは解放され、季節が確実に動いている感じがします。さて、CLASSY.ONLINEでは前回に続いて、「画数はそれほど多くなく、見た目は簡単そうなのに、読めない漢字」を集めました。始めましょう。
1.「肘」
最初は、「肘」(画数7)です。問題文は「痛めた肘の痛みに耐えながら、最後まで投げ抜いた」。
漢字「肘」は、実は常用漢字です。もちろん、この訓読みも常用漢字表に記載された読みですから、正しく読んでもらいたいところです。正解は「ひじ」でした。「月(にく・にくづき)」を部首に持つ漢字は、「胸」「脚」「腹」「背」「肩」などのように、基本的に「体の一部分」を表します。では、なぜ「月」かというと、「肉」の字が変化して「月」になったから。ただし、見た目は同じ「月」でも、「体」に関係しない「月(つきへん)」もあります。この多くは、「お月様」の「月」由来ですので、「体」に関係しない「月」「望」「朝」「期」/「服」「朋」などの部首は、「月(つき/つきへん)」になります。
ところで、前述のように、常用漢字「肘」は訓読み「ひじ」のみが記載されていますが、音読みそのものがないわけではありません。たとえば、慣用句「掣肘を加える(=そばから干渉して自由な行動を妨げる)」は、「セイチュウ」と音読みします。
2.「頁」
次は、「頁」(画数9)です。問題文は「新しい書物の最初の頁を静かに開く」。
問題文がヒントになったと思いますが、正解は「ページ」でした。「頁」は漢字の部首「頁(おおがい)」として、よく見かけます。「項」「頂」「頃」「頭」「預」などの常用漢字に共通する部首は、いずれもこの「頁」です。ところが、「頁」そのものは、実は常用漢字ではありません。意外な気がしませんか? 音読みは「ケツ・ヨウ」と読みます。岩石の種類として「頁岩(ケツガン)」というのがありますが、専門家の方は別として、一般的に聞く言葉ではありません。それに対し、訓読みは「かしら・ページ」です。「頭=頁(かしら)」は何となくわかりますね。では、「ページ」は?
「頁」が持っている音読みの一つ「ヨウ」の音が、「一葉(=一枚)の写真」のように、薄く平たいものを数える時の「葉(ヨウ)」の音に通じることから、「頁」に「ページ」の読み方が当てられたと考えられています。考えてみれば、中国語である漢字「頁」に、そのまま英語の「ページ」を当ててしまうわけですから、日本人はすごいと思います。
3.「囮」
最後は、「囮」(画数7)です。こちらも常用漢字外です。問題文は「人をだましておびき寄せるための囮を使った」。
さて、読めましたか? 刑事ドラマや推理小説では「囮捜査」という言葉が出てくることがよくありますよね。「捜査」が後ろに付けば、読めた人もいるのではないでしょうか?
正解は「おとり」でした。この「囮」とは、「捕らえようとする鳥や獣を招き寄せるために使う、同類の鳥や獣」のことですから、もともとは「招(お)き鳥」でした。たとえば、籠(かご)の中にこれを入れておくと、この鳴き声などにつられて仲間の鳥が引き寄せられて集まります。装飾品としても人気の高い、木彫りの鳥である「デコイ」も、この「囮」の一種ですよね。この手法が、人間にも用いられます。
なお、「媒鳥(バイチョウ)」と表記して、「おとり」と読ませることがあります(「媒」は「仲立ち」の意味)。また、「囮」を「おとり」と読むのは訓読みで、音読みは「カ」となります。
そういえば最近、某局のアナウンサーが、自身のコメントで、「慧眼」という言葉を「スイガン」と言い間違えたことを指摘され、経緯を語ったというニュースを目にしました。これ、学校の試験にもよく出すのですが、誤読の定番です。正しくは、「ケイガン」(=物事の本質を見抜く鋭い洞察力)と読むのですが、漢字「慧」が「彗星」(スイセイ)の「彗」と似ているがために、読み間違えると考えられます。
このように、漢字の読み間違い、書き間違いは、誰にでも普通に起こり得ることです。正直に言うと、国語教員兼ライターでもある私も、ついうっかり板書を間違えて生徒に指摘されることもあります。もちろん、ミスしないことが一番ですが、間違えた後の対処対応が大切だとつくづく感じます。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「古語林」(大修館書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)