お盆休みも終わり、仕事モード再開というところでしょうか。さて、漢字の中には「見た目は似ているけれど、全く別物」が存在します。その代表が、「爪」と「瓜」。「爪にツメなし。瓜にツメあり」という覚え方が昔からあるように、「爪(つめ)」と「瓜(うり)」ですよね。単独だと間違えなくても、漢字の構成部分の一部として、「孤(孤独など)」とか「狐(白狐など)」とかに入ると、「爪」と書き間違える人が結構いるものです。今回はそんな漢字を集めてみました。
1.「貧乏」と「貪欲」
最初は、「貧乏」と「貪欲」です。前の「貧乏」は読めますね。そう、「ビンボウ」です。では、後の「貪欲」は何と読みますか? 「貝」の上の部分が「今」になっています。「ビンヨク」「コンヨク」ではありませんよ。例文は「彼は、貪欲に知識を吸収するタイプだ」
正解は「ドンヨク」でした。意外かもしれませんが、「貪」は、れっきとした常用漢字です。訓読み「貪(むさぼ)る」、音読み「ドン」が常用漢字表にあります。意味は、「ほしがる・よくばる」ですので、「貪欲」であれば、「欲が深いこと・欲しがって満足することを知らないこと」の意味になります。この「貪欲」、古くは「トンヨク」(漢音「トン」)でしたが、現在は慣用音「ドン」で詠むのが一般的ですので、「ドンヨク」と読んで問題ありません(前述のように常用漢字表でも音は「ドン」のみです)。
この「貪」ですが、実際、熟語としてお目にかかることがあるのは、この「貪欲」くらいのものでしょう。「貪欲」の同義語で「貪婪(ドンラン)」がありますが、漢検の上位級ぐらいでしか見ることがありません。「突っ慳貪(つっけんどん)」なんていうのもありますが、普通は仮名(かな)書きします。
2.「政治」と「陶冶」
次は「政治」と「陶冶」です。「政治」は「セイジ」です。では、後の「陶冶」は何と読みますか? 「冶」の左側はよく見ると、「さんずい」ではなく「にすい」です。ですから「トウジ」「トウチ」ではありませんね。例文は「多くの人生経験が、人格の陶冶につながります」
正解は「トウヤ」でした。実は、この「冶」も常用漢字で、音読み「ヤ」のみが常用用漢字表に記載されています。漢字そのものの持つ意味は、「金属をとかして器物を作る」ですから、熟語「陶冶」であれば、「陶器を作り、鋳物(いもの)を作るように、人の性質や才能をきたえて育て上げること」の意味です。こちらも、「冶金(ヤキン)」なんて言葉を日常的に使う業界の人は別として、一般の方がこの漢字を目にするのは、「陶冶」くらいでしょう。
3.「名刺」と「潑剌」
最後は、今回一番の難問、「名刺」と「潑剌」です。「メイシ」のほうは問題ありませんね。後ろのほうは何と読むでしょうか? 「剌」は「刺す」と違って、左側の部分が一画多く、「束」の字と同じようになっていますね。「潑」も「剌」も常用漢字ではありません。ヒントとなる例文は「高校球児の元気潑剌としたプレーを見るのが楽しみだ」。
正解は「ハツラツ」でした。常用漢字外の「潑」は「ハツ」と音読みし、「水が勢いよくこぼれ散る」の意味を持つ漢字です。同じく常用漢字外の「剌」は「ラツ」と音読みし、ほぼ同じような「勢いよくとびはねる」の意味を持ちます。したがって、熟語「潑剌」で、「動作・表情などが生き生きとして元気のよいさま」を表します。
なお、「潑」のほうは「溌」という字体でよく見かけることも多いと思います。常用漢字「発」の旧字体が「發」だからです。しかし、常用漢字となって、「發→発」となった「発」の字と違い、「潑」のほうは常用漢字にならなかったわけですから、「溌」ではなく「潑」と書くべきだと考えることできます。「撥水スプレー」などに使う、字形のよく似た「撥(はねる・はじくの意味)」も同様ですね。
では、今回はこのへんで。 まだ、続編ができそうです。
《参考文献》
「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「古語林」(大修館書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)