さて、今回から「形容詞」に関する漢字をとりあげます。形容詞とは、「性質・状態・感情」などを表す言葉です。現代語では、「しろい」「あつい」「たのしい」のように言い切りの形が「い」で終わります。ひらがなで書かれることも多いのですが、前述の「あつい」も、「暑い・熱い・厚い・篤い」などの漢字表記があります。そんな中から、よく耳にするけど、漢字で書くとちょっと読みにくい(かもしれない)ものを集めてみます。初回となる今回は、「常用漢字」の範囲で、しかも、その音訓表に記載のある読み方(いずれも訓読み)の問題、言うならば初級問題です。
1.「著しい」
最初は、小学校6年生で習う漢字ですが、この読み方は中学校で学習します。例文は「成績の伸びが著しい」。この「著しい」は何と読むでしょうか? もちろん、皆さん読めましたよね。でも、ひらがなで、その読みを書いてみてください。「いちぢるしい」と書いた人はいませんか? 意外とありがちなんです。
正解は「いちじるしい」でした。漢字「著」は、「書きあらわす」という意味と、「あきらか・目立つ」という意味を持ちます。前者の意味であれば、音読みで「チョ」(「著者」「著作」)、訓読みで「著(あらわ)す」と読みますが、後者の意味であれば、音読みは同じく「チョ」(「顕著」「著名」)、訓読みでは「著(いちじる)しい」と読むわけです。
古語に、「はっきりしている・目立っている」という意味を持つ「著(しる)し」という形容詞があります。これに「そのことがはなはだしい」という意味を加える接頭語「いち」が付いて、「いちしるし」となり、さらに「し→じ」と濁音化して「いちじるし」となったわけです。ですから、「ちぢむ(縮む)」などとは違って、「いちぢるし」と書いてはいけません。
2.「芳しい」
次は、漢字そのものは中学校で習いますが、この読み方は高校で学習します。例文は「バラの芳しい香りを楽しむ」。この「芳しい」は何と読むでしょうか?
正解は「かんばしい」でした。この例文なら「かぐわしい」と読むこともできます。どちらも「よい香りがする」という意味です。両者の違いとしては、「芳(かぐわ)しい」には、「香気を放つような美しさ」というニュアンスがあります。「芳(かんば)しい」には、「好ましい・ほめられた状態である」という意味もありますが、この場合は、下に打消しの語を伴って、「成績が芳しくない」のように使います。
「栴檀(センダン=香木の名前です)は双葉より芳(かんば)し」ということわざを聞いたことがあるでしょう。「大成する人物は子供の時から人並み外れてすぐれたところがある」という、たとえです。
なお、漢字「芳」には、「他人についての事柄に冠して敬意を表す」という用法があります。招待状に印刷された「御(ご)芳名」をよく見かけますね。ですから、自分で返事を出す時は、「御」だけでなく、「芳」の字まで忘れずに二重線で消してください。
3.「疎い」
最後も、漢字そのものは中学校で習いますが、この読み方は高校で学習するものです。例文は「専門外のため、そのへんの事情には疎い」。この「疎い」は何と読むでしょうか?
正解は「うとい」でした。この例文では、「くわしくない・よく知らない」という意味になります。この「疎」は、いくつもの意味を持つ漢字で、「一つ一つが離れている・まばら」という意味で「過疎」、「人と人とが親しくない」という意味で「疎遠」、「おろそか・なおざり」という意味で「疎略」、「間を開けて通す」という意味で「疎水」など、よく目にする熟語をイメージすると、わかりやすいと思います。
「去る者は日々に疎(うと)し」というよく知られた言葉がありますが、「親しく交わった人でも、遠ざかると次第に交情が薄れるものだ(また、死んだ人は年月がたつに従って次第に忘れられるものだ)」ということを言っているわけですね。
では、今回はこのへんで。 また、難易度を上げた続編をやります。
《参考文献》
「広辞苑 第六版」(岩波書店)/「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)/「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)/「古語林」(大修館書店)/「難読漢字辞典」(三省堂)/「できる大人の漢字語彙力1500」(リベラル文庫)/「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)