関ジャニ∞ 安田章大・主演舞台『少女都市からの呼び声』レビュー【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.48】

カオスな街、歌舞伎町に現れた新劇場「THEATER MILANO-Za」のオープニング作品として上演された唐十郎作品『少女都市からの呼び声』。主演を務めたのは関ジャニ∞のメンバーとしての活躍はもちろん、俳優としても高い評価を集めている安田章大さん。歌舞伎町の街と同じくらい、またはそれ以上に カオティックな物語の主役を安田さんが見事に演じきった話題の舞台について、辛酸さんにレビューしていただきました!(注※ストーリーにふれている部分があります)

安田章大と咲妃みゆが兄妹役に 才能とエネルギーがぶつかり合う

「東急歌舞伎町タワー」の6階に

「東急歌舞伎町タワー」の6階に新劇場「THEATER MILANO-Za」が誕生。そのオープニングとして上演されたのが、アングラ演劇のカリスマ唐十郎の名作戯曲『少女都市からの呼び声』です。
1969年初演の『少女都市』の改作で、1985年、1993年と上演され、海外でも高い評価を受けている演目。アングラ演劇界に長く携わってきた劇団・新宿梁山泊主宰の金守珍が演出し、アングラ演劇のテントがあった花園神社近くの「THEATER MILANO-Za」で上演されるので、時代を超えて当時のカオスでシュールな空気が蘇りそうです。主演を務めるのは関ジャニ∞の安田章大。ヒロインは元宝塚歌劇団雪組トップ娘役の咲妃みゆ、才能やエネルギーがぶつかりあう舞台です。公開稽古の囲み取材では「日本だけじゃなく世界に届けられるレベルで仕上げてきたかなと思っている次第です」と、安田章大は自信を見せました。これまでも、唐十郎の演劇に憧れを抱いていたそうです。前衛的で実験的なアングラ演劇はハードルが高いイメージですが、安田章大が主演することで、難解なテーマも心に届くかもしれません。

 

体の中から一房の黒髪が…冒頭からアングラ感全開

物語は安田章大が演じる田口が手術台に横たわっているシーンから始まります。親友の有沢と婚約者のビン子が病室で見守っていると、看護師に田口の体の一部を取り除くか、そのままにするか決断を迫られます。田口の体内から、誰のものかわからない一房の黒髪が出てきたとのこと。そうしているうちに田口は起き上がり、妹の雪子を探す旅に……。最初からアングラ感あふれる展開で、不条理な世界に引き込まれます。途中、ボロボロの服を着た世捨て人の集団に道を教えてもらいながら、妹の居場所を目指す田口。
場面が変わって、雪子(咲妃みゆ)が部屋の中で歌ったり踊ったりしているところに、田口がたどりつきます。雪子はフィアンセのフランケ醜態博士(三宅弘城)が所有するガラス工場で働きながら暮らしていました。「お勤めは?」「辞表を出してきたよ」「解雇されたの?」と、無職の兄の状況を気にかける場面もありました。雪子は一見何不自由なく楽しく暮らしているようで、ガラス工場の事故で指を3本も失っていることが判明。さらにドクターフランケ醜態によって徐々にガラスの身体に変えられる手術を施されていたのです。すでに女性器もガラスになっていました。雪子は田口の手をそっとスカートの奥に導きます。「固いでしょ。冷たいでしょ。スベスベでしょ」女性の秘部に触れる安田章大の演技にいやらしさは感じられず、兄として一線を引いた言動に安心感が。指を失ったりガラス化手術を施されたり、前半からショッキングな内容ですが、アングラの洗礼を受けている感覚です。

現代では「ギリギリ許容範囲」な笑いもアングラ演劇ならでは

また、場面転換の度にダチョウ倶楽部の肥後克広、六平直政が出てきて、道化師のような存在感で笑いを届けていて、カオスなシーンの合間に少し癒されます。「オテナの塔」を目指している2人はいつかたどり着けるのでしょうか。「笑い」もアングラ演劇の重要な要素です。何十年も前の笑いが、現代ではギリギリ許容範囲か、それとも価値感の変化を感じさせるのか、比べてみるのも興味深いです。次々とクセが強いキャラが出てきますが、安田章大の存在感が負けていないのがすごいです。
雪子は手術台に寝かされ、脚だけが見えている状態に。ついには顔もガラスにされてしまいました。フランケはフィアンセの行動の自由を奪い、支配しようとしているのでしょうか。モラハラのレベルを超えています。より壊れやすく儚い存在になった雪子を、田口はなんとか救おうとします。
不条理シーンは続き、フランケがマグロの頭を食べたり、子宮虫たちが「雪子さんの子宮ははらめません!」と生々しく歌い踊ったり、フランケが戦時中共に戦った連隊長に化けた田口が雪子を助けにきたり、めまぐるしく展開。普通に筋書きを追おうとすると意味がわからないですが、とにかく田口が純粋に妹思いであることは伝わってきます。男らしく、優しくて純粋な田口を演じられるのは安田章大しかいません。ソロで「さすらいの唄」を歌うシーンもあり、力強い歌声にエネルギーをもらえます。雪子の天真爛漫なキャラや透明感も魅力的です。
でも、無邪気だからこそ時には残酷な言動もしてしまうのでしょうか。雪子は田口に指を切って差し出すように求めます。「あんたの指は私の指!」と迫り、田口の手をとって自分の胸に押し付けます。危ない言動も不思議と許せてしまうのは、浮世離れした美しさ故でしょうか。「駅のホームで蠢く人を見て、2人で洗面所で吐いたじゃない」と、中学時代の思い出を語り出す雪子。通勤のサラリーマンやOLを見て吐くとは……アングラな価値感が現れているセリフです。無職の田口も、ガラスの体で歌い踊っている雪子も、こんな状況でも自分らしく高尚に生きている、ということなのでしょう。アングラ演劇は世間の常識や倫理観に対し挑戦的です。

グロいけどピュア、な指切断シーン

時折グロいシーンが入ってきて、見る人の本能に訴えるのもアングラ演劇の特徴でしょうか。妹思いの田口は意を決し、お酒を飲んでから「勇気という名の一本!」などと叫びながら指を切断し,叫び声をあげていました。
兄の指をもらった雪子は嬉しそうに「ねえ兄さん、この指はなんて名付けようかしら」などと天然発言。指を切断という大きな試練のあと、こんな台詞を言われたら、茫然として痛みも一瞬感じなくなりそうです。白いドレスが似合う、純粋で儚くて天然な美女・雪子。アングラの世界でも好まれる女性のタイプなのでしょうか。田口にとっても、妄想の中の理想の妹だったのかもしれません。とはいえ最後まで一線を超えないのが紳士的で素晴らしいです。
場面は手術室に戻って、横たわる田口の体に雪子が覆いかぶさっています。黒髪に貞子感が漂う、ホラーのようなシーンです。しかし実際は田口には妹はおらず、「夢の中で知らない女の子と会った」と発言。生まれることながなかった妹は体内で髪の毛だけが成長したのでしょうか。田口の中にはずっと双子の妹の魂も存在していて、2人は1体だったのです。ベッドでの白いワンピースのネグリジェも妙に似合っていました。大量に舞台上に流れ込んでくるビー玉は、雪子の涙にも、ガラスの体の断片にも見えました。人がこの世に生まれる,ということ自体が奇跡なのかもしれない、と思える舞台。妹と合体し,男女両性の特徴を併せ持った田口を演じた安田章大は、進化した人類の完成形のようでした。

 



辛酸なめ子

イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。

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