なにわ男子・西畑大吾主演『忌怪島』をレビュー【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.47】

早すぎる真夏日にもぴったりな(?)ホラー映画、『忌怪島/きかいじま』が公開。大人気の「なにわ男子」西畑大吾さんが主演を務め、Jホラーの巨匠・清水崇監督が手掛けた「仮想空間」と「島の呪い」がシンクロする話題作について、なめ子さんにレビューしていただきました。【注※文中でストーリーにふれている部分があります】

「メタバース」×「呪いの伝説」を組合せた最先端ホラー

このところAIや仮想空間の発展

このところAIや仮想空間の発展がめざましいですが、物怪や霊たちも新たな霊界ができたという感覚でデジタル空間を自由にうろついているようです。清水崇監督の『忌怪島/きかいじま』は、メタバース空間と現実の南の島が舞台の最先端ホラー。主人公の脳科学者・片岡友彦役を演じるのは「なにわ男子」の西畑大吾です。コミュニケーションが苦手で不器用な天才・友彦はVRを研究するチーム「シンセカイ」に参加することに。「シンセカイ」は、若手のメンバーが島に移住し、島をまるごとスキャンしてデータ化するという実証実験をしています。メタバースに島をアップロードするような計画でしょうか。人と交流したくない友彦にとっては、ひとけがないメタバース空間は快適そうに思えたのでしょう。しかし、彼を島に誘ったチーフの脳科学者・井出文子は友彦が島に到着する直前に不審な死を遂げていました。初めから不穏な空気が立ちこめています。クールな友彦が恐怖の渦に巻き込まれていってしまうのでしょうか……期待と不安が入り交じります。

開放的な南国なのに恋愛要素がないのも呪いのせい…?

「シンセカイ」の拠点は、古びた一軒家の地下室。IT系のベンチャーならもっとおしゃれにリノベーションしそうですが、この薄暗い空間でも良いという意識は既に負のエネルギーに操られているのかもしれません。コミュ力が低い友彦は、メンバーに挨拶するよりも先に「僕のユニットってどこですか」と机に直行し「すいませーん、開けまーす」と最初にPCに挨拶。前髪が長めで暗い雰囲気ですが、西畑大吾自ら「友彦は髪型とかに関心がない人のような気がしたので」と役作りで髪を伸ばしたそうです(「ABEMA TIMES」の記事より)チームのメンバーは若い男女で、特に女子は生駒里奈、川添野愛などかわいくてファッションも南国仕様。あまりITっぽくないですが、若い者どうし、開放的な島で恋愛に明け暮れているのでは? と思ったら、特にそういうふうでもなく……それもまた島の呪いでしょうか。
自然豊かで気候も暖かく暮らしやすそうな島ですが、少女が同級生にいじめられたり、おじいさんが少年たちに嫌がらせされたり、陰湿な雰囲気です。そのおじいさん(笹野高史)はシンセカイの世話人として雑用をしてくれているのですが、影がある表情で何かの秘密を抱えていそうです。

シャーマン役の女優さんが本職の方かと見まごうほどリアル!

メタバースの島でも不気味なバグやイメージが出現するように。そんな時、友彦は島で園田 環(山本美月)と出会います。父親が島で不審死したという環と、偶然に島のシャーマンのもとを訪れることになり、浮かばれない死者たちの思いを受け止めます。環の父・哲夫は「シンセカイ」の被験者でもあり、島の呪いにやられたようでした。ちなみにこの時の島のシャーマン役の女性がかなりリアルでした。白装束で祭壇に向かって、ユタの祝詞のようなものを唱えていました。その素朴な語り口調から、てっきりロケ地の島で本職の方が出演されたのかと思ったら、『ちむどんどん』などにも出演している、吉田妙子さんというレジェンドな女優さんでした。メタバースやAIが発展しても、生身の人間の味のある演技は再現できなさそうです。
天才脳科学者の友彦は人の脳波を記録し、自分がその脳波を追体験することでこの島の怪現象に迫ろうとします。人付き合いが苦手なはずの友彦が、他人の脳波を追体験する「ブレインシンクロニシティ」という、かなりディープな人間関係に挑んでいて胸が熱くなります。西畑大吾とのブレインシンクロニシティならぜひやりたい、と思う人も多いのではないでしょうか。環の父の脳波と井出文子の脳波を調べたら、同じ時に浜辺で赤い服を着た女に襲われていたらしいことが判明。赤い服の女は貞子のようにメタバースから現実に這い出てきて、人を襲い,暴れ回ります。
海辺に立っている不気味な赤い鳥居が異界と現実の境界のようで、赤い服の女の出現スポットとなっていました。水辺の鳥居は映えスポットとして芦ノ湖にもありますが、この映画を観た後は印象が変わってしまいそうです。そして次第に赤い服の女の悲しい伝説が明らかに。島には、非業の死を遂げ怨霊になった悲しい女性の「イマジョ伝説」が言い伝えられていました。

ロケ地にも「イマジョ伝説」に似た呪いの言い伝えが…

友彦はメタバースと現実を行き来し、時にはイマジョに海に引きずり込まれたりしながらも、果敢に応戦。「ABEMA TIMES」の西畑大吾のインタビュー記事では「浅瀬でも足をすくわれたりするので、海ってやっぱり怖いなと思いました」と、過酷な海での撮影を振り返っていました。水中に沈んでいくシーンでは鼻に水が入ってきて、「死ぬかも!」と思う体験をしたそうです。水中シーン、かなり緊迫感がありましたが、実際にそんな試練があったとは。ロケ地の奄美大島にも「イマジョ伝説」と似ている「ヤンチュの呪い」という話が伝えられていて、外部の人に内容を教えただけで死んだ人がいるとか。しっかりお祓いをしないと祟りが発動しそうです……。しかし水中ロケで危険を感じた以外は、近い年齢の共演者たちが集まってお揃いのTシャツを作ったり、泥染め体験したり、エモい写真を撮り合ったりと楽しい撮影だったようです。西畑大吾も記事の中で「ホラー映画を撮っているとは思えないくらい楽しかったです。サマーバケーションのようでした」と語っています。呪いの伝説があるロケ地で、同じような呪いがテーマのホラー映画を撮影しても順調に進んで映画は完成。今のところ出演者に何か不吉なことが起こったというニュースもありません。西畑大吾が映画の宣伝で出た番組で心霊ドッキリをしかけられて怯えていたくらいでしょうか……。
若い俳優たちが島で青春のエネルギーをほとばしらせていたので、呪いのパワーは封じられてしまったのかもしれません。ネガティブな精神状態だと呪いの念や負のエネルギーに同調してしまいます。西畑大吾をはじめ、出演者はオンオフの切り替えががうまくて、さすがプロだと感じ入りました。観客としては、この映画を観たあとは恐怖でなかなかすぐに現実に戻れなさそうですが……。

辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。

 

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