クズ要素ゼロ以下のキスマイ・藤ヶ谷太輔が徹底したクズ男に!【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.42】

Kis-My-Ft2としての活動に加え、ドラマや舞台、バラエティ番組でも活躍し、先輩の中居正広さんからは休養中の番組MC代打を指名されるという大役を務めている藤ヶ谷太輔さん。周囲からの信頼も厚い藤ヶ谷さんがとことんクズな男性を演じて高い評価を集めた舞台作品『そして僕は途方に暮れる』が映画化。演じた藤ヶ谷さん自身、撮影中かなり追い詰められたという話題作を辛酸さんにチェックしていただきました。
(注※映画のストーリーに触れている部分があります)

'18年に上演、絶賛された舞台が映画化

一般市民は現実から逃げたくなっ

一般市民は現実から逃げたくなってもゲームや映画や温泉で逃避することくらいしかできませんが、常識の範疇を超えた現実逃避をしてしまう人も存在します。『そして僕は途方にくれる』で藤ヶ谷太輔演じる主人公のフリーター・菅原裕一は、逃避癖が激しい青年。藤ヶ谷太輔本人は先日の『1周回って知らない話 2時間SP』によると、後輩から慕われ仲間からも相談を受ける面倒見のよいキャラだそうで、今回演じている主人公とは反対のタイプなのかもしれません。でも、持ち前の演技力で全身全霊でクズ男を演じています。この作品は三浦大輔の脚本・演出でシアターコクーンで上演されて絶賛された舞台の映画化ということで、期待が高まります。
菅原裕一(藤ヶ谷太輔)は、鈴木里美(前田敦子)の家で同棲し、フリーターをしながら自堕落に暮らしています。里美が作った朝食も適当に残して、LINEで浮気相手とやりとりして夜、ホテル街へ……。そんな姿を怪しまれ,「どういう関係なの!?」と彼女に問いつめられると、急に荷物をまとめだした裕一。「ちょっとお願い、話聞いて!」と里美が追いすがると「どうしたんだろう急に体調が……」としゃがみこんで相手を油断させ、そのスキに逃げ出します。リュックを背負って自転車に飛び乗り、街を爆走。居酒屋でバイトしているそうですが、ウーバーの配達員のほうが稼げそうです。

知人の家に転がり込むも次々に逃げ出し…

裕一は小学校からの幼なじみの伸二の家に転がり込みます。そこでもわがままぶりを発揮し、食事の後の片付けもしなかったり、洗濯も伸二にさせたり、「俺の布団敷いといて」と顎で使ったり、会社員の伸二が朝早いのに深夜までテレビを観たり、やりたい放題です。テレビを観て上から目線で「芸能人でYouTubeやるのってどう思う?」「テレビの世界から逃げたってことを一回は認めてほしいよね」という批評まで。裕一自身は大学時代、映画サークルに入って映画製作の夢を抱いていたので、自分自身も夢から逃げたという負い目があるようです。プライドを守るために、人を落とすという人間性。そして友人の家に世話になりながらも偉そうな裕一。もしこれがかわいい猫だったら許せますが……友人だったら厳しいです。ついに伸二に苦言を呈され、またリュックを背負い自転車で逃げ出します。特に罪を犯しているわけではないのに、警官の前で挙動不審になってしまいます。
次に転がり込んだのは、映画サークルの先輩の家。伸二に「人としておかしい」と批判されたので先輩には気を使い、ティッシュなどの生活用品を買い出しに行き,コインランドリーで洗濯。部屋でも先輩が飲み散らかしたビールの缶を片付け、人が変わったように奉仕します。しかしここでもまた先輩に、浮気相手の彼女に連絡してみろとあおられて、その圧に耐えきれなくなって逃げ出してしまいます。
そのあと,映画サークル時代の後輩と会って事情を説明すると、「やっぱ先輩はすげーっす。だってそれって人間関係を全部切ってるってことっすよね」「先輩の今の状況って映画になると思う」と謎にホメられ、自尊心を保つ裕一。後輩の家には泊まれない空気で内心、期待外れに思いながらも、「助監督とかしても結果、いい映画撮れるとは思えないけどね、俺は!」と後輩にマウントをかましてその場をあとにします。

お母さんが溺愛しすぎてこんなダメ息子になった疑惑

土砂降りの中、自転車も盗まれ電話する友人知人もいなくなって、肉親である姉に助けを求めることに。しかし、姉にお金目当てと言われて逆上し「結婚できない理由はなんとなくわかるけどね!」と姉の弱点を突いてまた飛び出してしまいます。常に後足で泥をかけるようにして逃げていますが、その退路を立つ処世術が潔く思えてきます。
どこにも行く当てがなく、うらぶれた路地のゴミ箱のようにしゃがみ込む姿が不憫です。最後の頼みの綱として、ずっと連絡しないでいた母親に電話すると、息子の声を聞けて嬉しそうな母。「明日、そっちに帰ります」「えっ本当に?  何か食べたいものとかある?」と、電話口から弾んだ声が。そもそも息子がこういう性格に育ったのは、このお母さんが溺愛しすぎたからかもしれない、という疑惑が浮上。そして別れた夫、裕一の父親もどうやらダメ男らしいことがわかってきました。
「オレ東京から戻ってきてこっちで暮らそうかな。やりたいこととかとくにないし」と消去法で実家に戻ろうとする裕一。でも結局、母親のところからも逃げ出して、雪の中さまよっているところをクズ男の先輩、父親に見つけられ、しばらく家に居候することに。

ダメな大人を演じさせたらトヨエツの右に出る者なし

父親・浩二を演じるのは豊川悦司。今、ダメな大人を演じさせたらトヨエツの右に出る人はいません。今までさんざんクズな姿を見せてきた藤ヶ谷太輔が、一瞬ピュアな少年に見えました。浩二は浮気がバレて再婚相手と離婚し、慰謝料を請求されて友人知人にお金を借りまくり、その借金を返さずにバックれて、パチンコと飲酒に明け暮れる日々……。裕一が自分のDNAに不安を持つような業の深さでした。
「自分が何もしなくても世間様が勝手に帳尻を合わせてくれる。ぬるま湯だよ、世の中は」と、気怠げにタバコの煙を吐く浩二。ダメが極まるとカッコよく見えてきます。「逃げて逃げて逃げ続けろ。それでどうしようもなく怖くなったら、映画の主人公にでもなったつもりで思うんだよ。〝おもしろくなってきやがったぜ〟。 これで全てが解決さ」と、妙な説得力で息子に逃げの極意をアドバイス。腑に落ちたような表情の裕一。ずっと逃げ続けていると逃げフェロモンが出るというか、最初彼女の家でダラけていた頃より精悍な表情に見えてきます。逃避で鍛えられ、無精髭が似合うたくましい男性になりました。

逃避癖は愛されたい欲求の裏返し…?

世の中の常識人はこの映画に出てくる姉や彼女や友人たちのように、自分の気持ちを言えとか謝れとかちゃんとしろ、と追い詰めてきます。でも、逃げるしかない裕一は誰よりも不器用で繊細なだけなのかもしれません。自分を守るため、必死に生きているのです。逃げる生き方も多様性の一つとして認められるべきかもしれない……そんな思いにかられる作品でした。父親から受け継いだ逃避遺伝子をこのまま全うしてほしい気も。顔が好きだから許したくなってしまう説もありますが……。イケメンがいつか逃げていなくなってしまうかも、と思うと、ますます相手への思いが高まります。逃避癖は、愛されたい欲求の裏返しなのかもしれません。

『そして僕は途方に暮れる』
’18 年にシアターコクーンで上演され、各所から絶賛を浴びたオリジナルの舞台を脚本・監督・三浦大輔×主演・藤ヶ谷太輔が再タッグを組み映画化が実現、TOHOシネマズ 日比谷ほかで全国公開中。出演:藤ヶ谷太輔 前田敦子 中尾明慶 毎熊克哉 野村周平 / 香里奈 原田美枝子 / 豊川悦司 脚本・監督:三浦大輔
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辛酸なめ子

イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「辛酸なめ子の世界恋愛文学全集」(祥伝社文庫)、「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」(光文社新書)など。

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