隠れDV被害者になっていませんか?「結婚前でも男性が女性に自分の収入を隠したり開示を拒むことはDV」

「男女の間ではよくあること」で片付けられがちなパートナー間でのモヤモヤが、じつはDVだったとしたら…?DV当事者のカウンセリングに取り組む信田さよ子さん、作品を通してDV問題にアプローチする瀧波ユカリさんにお話を聞きました。

ジェンダーギャップ指数下位国の日本で、健全なパートナーシップを築くためには?

信田:今はモラハラという言葉も広まり「殴る蹴る」だけがDVではないと理解されてきています。たとえば実際に体に触れる暴力がなくても、パートナー女性を脅したり怖がらせたりすることはもちろん、パートナー女性が大事にしているものを貶めることもDVの入口です。これは相手の領域のことを悪く言う=委縮させて支配する、という構図につながるから。DVは日常生活の中で行われて定着していきます。

瀧波:一般の人が一見DVではないと捉えそうなことで、「じつはこれもDV」というケースがあったら教えていただきたいです。

信田:DVとはシンプルに言うと「力による支配」です。たとえば、 彼にとって気に入らないことがあると口をきかなくなる、扉を閉める動作などでわざと大きな音を出す、など不機嫌な態度を示して支配するケース。また、ことあるごとにパートナー女性に「別れる」と言うのもDVです。これは「別れる」と言うことで相手を脅し、自分の言うことをきかせる支配です。家計をともにしているのに収入を教えてくれないというパターンも聞き飽きるくらい多い。女性は出産でキャリアが中断される、さらには仕事を失うかもしれないリスクがあるなか、男性が収入を教えないというのは、女性を経済的不安に陥れてしがみつかせることになり、逃げられなくなってしまいます。

瀧波:私は結婚前でも男性が女性に自分の収入を隠したり開示を拒むことはDVだと思っています。男女で平均収入の差が大きくある今の日本で、男性が将来をともにするかもしれない交際相手に自分の収入を教えないという状態は果たして対等な関係と言えるのでしょうか?

信田:そうですね。たとえ女性のほうが収入が高い場合でも、これはDVに当てはまると思います。「出産をするかもしれない性」というだけで職を失う/就けるはずだったポストから外されるリスクがあるのが今私たちが生きている社会です。ジェンダーギャップ指数116位という現状から、20位ぐらいまで日本の順位が上がれば変わるかもしれませんが。

瀧波:今の相手がDVだとわかった場合、比較的身動きがとりやすいCLASSY.世代は別れるか、または相手が変わることを信じて付き合い続けるか迷うところかなと思います。

信田:お付き合いの段階だったら別れたほうがいいと思いますよ。「今のうちに」と言いたい。結婚して初めてDVだとわかった、という人はいません。付き合っているときから違和感があり、結婚後に起こるDVは全部その種から芽が出たものなんです。まして子どもがいたらすぐに別居、離婚なんてできません。自分が家を出ることが唯一の解決策だと思ってしまうと「それは無理だから耐える」という選択になってしまう。

瀧波:「離婚すればいい」というのは理想論にすぎないんだなと思います。そこにたどり着くまでのプロセスは本当に大変。

信田:DV被害者に伝えていることのひとつに、日々の生活の中で「自分の意見を少しでも相手に言う」ことを試みる、というものがあります。子どもの虐待も子どもが虐待する親の身長を超えたら止まるというのがひとつの定義。負けるかもしれない相手に虐待はしません。だからDVも、あなたが反論して、相手がちょっと退く瞬間が重要なんです。

瀧波:「お前って俺がいないとだめだな」とか、女性を「よしよし」と上から可愛がる傾向がある男性もDV加害者に変わる要素があると思います。「愛されているから可愛がられている」と思うかもしれないけれど、自分が彼の前で弱い女のコのキャラを演じているところがあると思ったらヤバいと感じてほしい。少女漫画も人気ランキングの上位の作品は「お前、俺の愛を受け取れ」という構図がすごく多くて。そういう話に触れていくうちに、自分が「ああしたい、こうしたい」という未来より、誰かに強く愛されてそれを受け入れるほうが楽だと感じるようになってしまうのかな。女のコがあらかじめ自分のための大きな夢を持って、自分で叶えることを諦めさせられているようにも感じます。あとは自立した考えを持って「支配しようとしてくる男なんか受け付けない!」という強さを見せるとマジで相手が見つからない、という問題もあるかも。

信田:今の若い女性は結婚したいのでしょうか?

瀧波:結婚するものだと思っているし、みんなが結婚していくと「私だけ取り残されている」という感覚はあります。そんな焦りが女性を惑わせるかもしれませんが、私は対等な友達になれないような男性とは結婚しないほうがいいと思っています。

信田:「私は全然ひとりで生きていけますから」という自信がDVをはねつけることにつながります。男性に選ばれるのではなく、自分の基準に合う相手を選ぶつもりで結婚相手を決めてほしいですね。

教えてくれたのは...

公認心理士・信田さよ子さん 臨

公認心理士・信田さよ子さん
臨床心理士としてDV、アダルトチルドレン、虐待、親子問題にカウンセリングや著作を通して取り組む。DV加害者プログラムや被害者の支援に携わり、DV加害者と被害者両方に関する知見も深い。

漫画家・瀧波ユカリさん ドラマ

漫画家・瀧波ユカリさん
ドラマ化もされた人気作『臨死!!江古田ちゃん』『モトカレマニア』をはじめ、著作多数。「このマンガがすごい!2023」にランクインした『わたしたちは無痛恋愛がしたい』でも男女のDV問題に斬り込んでいる。

イラスト/Erika Skelton 取材/加藤みれい 再構成/Bravoworks.Inc

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表紙モデル:山本美月

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