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カツセマサヒコ「それでもモテたいのだ」【初デートなのにシングルライダー】

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カツセマサヒコ「それでもモテたいのだ」【一瞬でも誰かの「特別」になれた男】

二十代の男性の四割がデートをし

二十代の男性の四割がデートをしたことがない、という内閣府の発表が話題になっていた。男性の経済力が低迷していること、恋愛しなくたって人生を充実させる方法が増えてきたこと、そもそも出会いの機会が減ったことなどが理由に挙げられているという。
恋愛する・しないの判断は各々が決めることだし、外野が口出しすることではない。それぞれが楽しいと思う人生を歩めばそれに越したことはないんじゃないかと思いながら、私にも過去にいくつかのデート経験があって、それらをふと思い出すこととなった。

とくにあのデートは何だったんだ?と、今更疑問に思うのが、学生時代のとある一日のことである。異性の友人から数年ぶりにメールが届いたと思ったら、「どっか行こう」と誘われた。「飲みに行く」のではなく「どこかに行く」。つまりこれはデートだ!と、舞い上がって同意した。
肝心の目的地を決めなければならない。映画館か、水族館か、動物園か、美術館か、有名なラーメン店か、アウトレットモールか、遊園地か。議論が弾む中で「ディズニーランドは?」と、冗談まじりに案を出した。付き合ってもいない男女がディズニーに行くなんて、なんとも贅沢すぎる。もしもこれで付き合うことになったら「初デートがディズニー」なんて華々しい実績のせいで、それ以降の記念日のハードルの高さが毎回エベレストを越えてくる。だからディズニーランドなんて、そんなに気軽に行くものではない。あそこはいつまでも特別でスペシャルで格別な場所でなければならないのだ。そう思っていたからこそ、あくまでも冗談で「ディズニーランドは?」と聞いた。
しかし、彼女の返答は私の予想を裏切り、同時に、ほのかな期待を完全に越えてみせた。「私もそれ、今思ってたところ」イッツ・パーフェクト。まさかの初デートにして、付き合う前からディズニーデートが決定した瞬間であった。こうなったらかなりの確率でなんらかの進展が望めるのではないか。夢の国において「何もなかった」なんて、よほどのことがない限りありえないだろうから。若き日の私は小躍りしながら舞浜駅へと降り立った。

しかし、そこで待ち受けていたのは、彼女からの耳を疑うような提案だったのである。「並ぶの面倒だし、シングルライダーで乗ろうよ」皆さんは「シングルライダー」という画期的システムをご存知だろうか?ディズニーリゾート内におけるアトラクション、とくに人気コースターなどに対して、定員数の都合で空席ができた場合に、おひとりさまを優先して乗車させる仕組みのことである。通常よりも少ない待ち時間でアトラクションに乗れるため、一人でパークに来た人や、できるだけ多くのアトラクションを楽しみたい人にはかなり重宝するシステムだ。
しかし、私はデートのつもりで、ここに来た。ジェットコースターで「きゃー!」と叫ぶそのどさくさに紛れて手を繋ぐとか、そういう良からぬ妄想を繰り広げて、今日を迎えた。
それが、どうだろう。スプラッシュ・マウンテンの列に並び、丸太に似せたボートが近づいてくる。彼女は「じゃ、また後で!」と言って、颯爽と一人でそれに乗る。目の前から姿を消し、残された私はコンビニ前で主人を待つ飼い犬のようではないか。そして私も、次のコースターに乗せられる。隣を見れば、知らないおっさんがいた。知らないおっさんと乗る、スプラッシュ・マウンテン。別の意味で、心が絶叫していた。しかもそれを、三回繰り返した。

あのデートは、一体何だったのだろうか。いや、果たしてあれは、デートだったのだろうか。十年以上前の話であり、今更彼女に問いただすわけにもいかない。ただひとつ確かなのは、そのデート以降、彼女とは一度も再会していないという事実だけである。二十代の男性の四割がデートをしたことがない。それで全く問題ないと思う。

この記事を書いたのは…カツセマサヒコ

1986年、東京都生まれ。デビ

1986年、東京都生まれ。デビュー小説『明け方の若者たち』(幻冬舎)が大ヒットを記録し、2021年12月に映画化。二作目となる小説『夜行秘密』(双葉社)も発売中。

イラスト/あおのこ 再構成/Bravoworks.Inc

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