今回は、四字熟語にまつわる漢字の読み方を紹介します。四字熟語は、漢字四字で構成される熟語や成句、その中でとくに、「ことわざや慣用句」的な意味を持つものを指す言葉です。「春夏秋冬」「上下左右」、あるいは「焼肉定食」は、「漢字四文字が連続する語」ではありますが、「切磋琢磨(セッサタクマ)」とか「四面楚歌(シメンソカ)」など、故事などに基づき、結合した語が特別な意味を表すものを「四字熟語」と呼ぶと考えるのが一般的です。
四字熟語は、文章や日常会話など思わぬところで顔を出します。読めずに口ごもってしまったり、間違いであることに気づかずに誤読してしまったりしないために、気をつけたいものを取り上げます。
1.「一期一会」
最初は、「一期一会」です。さて、何と読むでしょうか?「イッキイッカイ」と読んだ人はいませんか?
正解は「イチゴイチエ」です。漢字「期」の音読みは、漢音(中国唐の時代の都での発音)の「キ」以外に、呉音(古く日本に伝わった中国南方系の音)「ゴ」があります。また、「会」の音読みにも、漢音「カイ」以外に呉音「エ」があります。
「一期一会(イチゴイチエ)」とは、安土桃山時代の茶人の著にある「茶会の心得」を言う言葉で、「一生に一度限りである(から悔いのないように茶を立てる)」ことを表わします。
ところで、栃木県では、この秋に国体が開催されますが、その愛称が「いちご一会とちぎ国体」と命名されました。名産の「いちご」をアピールしたいのはわかります。「心のこもったおもてなし」をしたいのもわかります。しかし「一期一会」の形で、はじめて「イチゴイチエ」と読めるのですから、「いちご一会」とするのは、正直いかがなものでしょうか?
2.「三位一体」
次は、「三位一体」です。さて、何と読むでしょうか?これは「サンイイッタイ」と読んだ人が多いことでしょう。
正解は「サンミイッタイ」です。漢字「位」の音読みは皆さんご存じの「イ」だけです。ですから本来は「サンイ」でよいのですが、これが「サンミ」となるのは、「連声(レンジョウ)」によるものです。「連声」とは、「二つの語が連続する時の発音変化の一つで、「天皇(テンオウ→テンノウ)」「因縁(インエン→インネン)」などと同じです。この「三位一体」は、キリスト教に関係する言葉です。「父(神)と子(キリスト)と精霊」の三つは、唯一の神が三つの姿となって現れたもので、もとは一体であるという考え方に基づいており、ここから「三つの異なるものが一つになること。または三者が心を合わせること」という意味で使われます。
3.「不惜身命」
最後は、「不惜身命」です。さて、何と読むでしょうか?これは「フセキシンメイ」と読んだ人が多いでしょうか。
正解は「フシャクシンミョウ」です。漢字「惜」の音読みは、常用漢字表に示された「セキ」以外に「シャク」があります。また、「命」の音読みは、常用漢字表に「メイ」「ミョウ」の二つが示されています(「ミョウ」は「寿命」などでおなじみですね)。この「不惜身命」は仏教用語で、「仏道を修めるために、あえて自らの体や命を捧げて惜しまないこと」という意味で使われます。
昔話ですが、かつて力士が横綱などに昇進する際の使者を迎える挨拶で、四字熟語を用いて決意表明するのが流行したことがありました。現在もテレビ等で幅広い活躍をする貴乃花関は、この「不惜身命」を口にしました。もちろん、仏道ではなく相撲道に精進するたとえとして用いたわけです。あれは1994年のことでした。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「故事ことわざの辞典」(小学館)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)