今回は、意外と読めない漢字の慣用句を紹介します。慣用句とは、「二つ以上の語が結びついた形で使われ、全体である特定の意味を表わすもの」。たとえば、「油をしぼる(=叱ったり責めたりして、きつく懲らしめる)」などです。これまでも、読み間違いをしやすいものを取り上げてきましたが、今回は常用漢字外の漢字を含むものを選びましたので、少し難しめかもしれません。
1.「裃を脱ぐ」
最初は、「レセプションでは裃を脱いで懇親を深めたい」などと使われる「裃を脱ぐ」です。さて、何と読みますか?
「裃」は常用漢字表にはない漢字ですが、「裃(かみしも)」と読むのが正解です。この「裃」は、「国字」と言って、日本で作られた漢字のため、訓読みしかありません(例外として、「働」のように音読みを持つものもあります)。「裃」とは、上着と同色の袴(はかま)との組み合わせの衣ですから「ころもへん」に「上下」なのです。
この「裃」とは、江戸時代の武士のいわゆる「正装・礼服」です。したがって、それを脱ぐわけですから、「気兼ねなく打ち解ける」状態になるわけです。それにしても、コロナ禍でこうした機会もご無沙汰です。
2.「鯖を読む」
次は、「年齢を尋ねられて思わず鯖を読んだ」などと使う「鯖を読む」です。さて、何と読みますか?
「鯖」は常用漢字表にはない漢字(「魚(うお)へん」の漢字で常用漢字に入っているのは、「魚」「鮮」「鯨」の三つだけ)ですが、「鯖(さば)」と読みます。そう、「青魚」の代表選手で、居酒屋では塩焼きや煮つけなどの料理で人気の高い「サバ」です(なぜかカタカナがしっくりきますね)。国字が多い「魚へん」の漢字の中で、この「鯖」はそうではありません。ただし、今、われわれが「鯖」と呼んでいる魚を指す漢字ではなかったようです。
さて、この「鯖を読む」は、「自分に都合の良いように数をごまかす」という時に使われますが、かつて魚市場で「鯖」の数を数える時、わざと早口で数えてごまかした(傷みやすいので急いで数えたとも)ことから生まれた言い方です。
なお、この「鯖」の字の「魚へん」右側の構成部分をよく見てください。「青」ではなく「靑」になっているのがおわかりですか。これは「青」の旧字体です。「青」は常用漢字ですので「靑」から新字体の「青」へと変わりましたが、「鯖」自体は常用漢字外ですので、そのままの形で残りました。ですから、「鯖」と書く場合は、「円」と書くのが正しいです。
年齢や身長・体重など「鯖を読んだ」経験はありますか。私はあります。
3.「鎬を削る」
最後は、「与野党の候補者が激戦区で鎬を削った」などと使う「鎬を削る」です。さて、何と読みますか?
「鎬」も常用漢字表にはない漢字ですが、「コウ/しのぎ」の読みを持ちます。ここでは訓読みで「しのぎ」と読むのが正解です。「しのぎ」とは、武士が使用した刀の一部分を指す言葉ですが、刀身の刃と峰(=背の部分)の間を一線に走る、少し高くなった部分のことを言います。この部分をまるで削り合うくらい、激しく切り合うのが「鎬を削る」です。「苦しい状態を切り抜ける・超えて上に出る」の「凌(しの)ぎ」と誤解している人がいると思いますが、実はそうではありません。
なお、この「鎬(しのぎ)」と間違いやすいのが、「鍔(つば)」です。こちらは、「刀身と持ち手である柄(つか)の間に挟み、柄を握る手を保護する板状の金具のことを言いましたが、帽子の突き出た部分である「庇(ひさし)」を意味する「つば」として、現代に残っています。
いかがでしたか?さらっと読めるとちょっとかっこいいですよね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
Magazine
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more