CLASSY.ONLINEでは、「読み間違いの可能性があると思われる漢字」を中心に、毎回紹介しています。声に出して読まなければいけない時に、自信を持って読めなかった経験や、これまで間違っていることに気づかずに何度も誤読していた経験は、誰にでもあるでしょう。これが日常生活のシーンで出てきたら、どう読むか考えてみてください。今回は、二文字の熟語に絞って紹介します。
1.「億劫」
最初は「億劫」です。さて、何と読むでしょうか?「オクリョク」なんて読んでいませんか?
正解は「オックウ」でした。常用漢字「億」は「オク」の音読みを持ち、実際の数量を表わす単位となるほか、「巨億の富」のように、「数がきわめて多いこと」の意味でも使います。それに対し、「劫」は常用漢字外ですが、「ゴウ」の音読みを持ちます。「未来永劫(ミライエイゴウ)」なんて四字熟語を聞いたことはあるでしょう。
この「億劫(オックウ)」という熟語は、実は、もともと仏教語で、「オクコウ」と読みます。「きわめて長い」という「劫」が「億」もあるわけですから、「永遠」(さきほどの「永劫」も同じ)をあらわす言葉でした。それが、長い時間がかかるところから、やがて「めんどうで気が進まない」という意味が生じて、「わざわざ出かけるのは億劫だ」などと使うようになりました。また、発音そのものも「オクコウ→オッコウ→オックウ」のように変化したと考えられます。
2.「杜撰」
次は、「杜撰」です。さて、何と読むでしょう?「シャセン」などと読んだ方はいませんか?
正解は「ズサン」でした。「杜」も「撰」も常用漢字外です。「杜」は「ト/もり」の音訓があります。高校の漢文の時間に「杜甫(トホ)」という唐の時代の詩人が教科書に出てきたでしょう。また、「杜(もり)の都」と呼ばれる都市名がいくつか思い浮かびますね。「撰」は「セン/えらぶ」で常用漢字「選」と同様の使い方をしますが、「選」と違うのは、もともとは「詩歌・文章をえらび抜いて書物にまとめる」という意味で使われることが多い点です。たとえば、古文の『古今和歌集』は「勅撰(チョクセン)和歌集」と習ったはずです。
実は、この「杜撰」の「杜」は、同じ中国の詩人でも「杜甫」ではなく、宋の時代の「杜黙(トモク)」のことです。彼の詩は、当時の詩の様式に合わないことが多かったそうで、ここから「杜撰=杜黙の作った詩や文」は、「誤りが多いこと」という意味で使われるようになってしまいました。さらに、詩や文章に関係なく、「手抜きが多い」という意味が生じて、現在のように「杜撰な仕事」などで使われるようになりました。
3.「一入」
最後は「一入」です。「一」も「入」も、おなじみの常用漢字です。さて、何と読むでしょうか?もちろん「ひとり」ではありません。「ひといり」や「いちにゅう」と読んではいませんか?
正解は「ひとしお」でした。実は、「一入」とはもともと染め物用語であり、「染め物を染め液に一回浸すこと」を指しました。そうすることによって染め物の色がいっそう濃くなります。ここから、染め物とは関係なく、「より程度がはなはだしくなること」をあらわすようになり、「初勝利の喜びは一入だった」などと使われるようになりました。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「語彙力がどんどん身につく語源ノート」(青春出版社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
Magazine
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more
View more