CLASSY.ONLINEでおなじみ、漢字2010年に改定された「常用漢字表」には,常用漢字2,136字の字体、音訓などが示された「本表」の他に「付表」というのがあります。「付表」には、語として特別な読み方をするものが示されます。たとえば、「明日」という熟語は、「みょうにち」以外に「あす」とも読みますが、「明」に「あ」、「日」に「す」という読み方はなく、漢字2字をひとまとまりにして「あす」と読みます。「付表」には、このように2字以上の漢字が結び付いて特別な読み方をする言葉が116語あげられています(なお、「明日」は「あした」とも読めますが、これは「付表」にもありません)。
今回は、この「付表」の中から、読みにくいと思われるものを3つ紹介します。
1.「蚊帳」
最初は、「蚊帳の外に置かれる」などと使われる「蚊帳」です。さて、何と読みますか?
正解は「かや」です。「蚊帳」とは、古くは「かちょう」とも読み、「寝室につりさげて蚊を防ぐ、目の細かい網のおおい」のことです。冷房がまだ一般家庭にそれほど普及していなかった昭和の時代、夏の夜に「蚊帳をつる」というのは、ある一定以上の年齢の方であれば、実体験があるのではないでしょうか。なお、冒頭の例文の「蚊帳の外」は、「内情を知らされない立場に置かれる」という意味の慣用句です。「蚊帳」を知らない日本人ばかりの時代になっても、この言葉は生き残るのでしょうか。
2.「固唾」
次は、「固唾をのんで見つめる」などと使う「固唾」です。さて、何と読みますか?もちろん「かたつば」ではありません。
正解は「かたず(づ)」でした。ここでの「固」は「緊張して」の意味ですので、「固唾」とは「緊張している時に口の中にたまるつばき」のことですが、「つばき」という語は、「つば」の意味の古語「つ」+動詞「吐く」の名詞形「吐き」から来ていると考えられます。なお、常用漢字の「唾」には、「つば」という訓読みの他に、音読み「ダ」が示されていますが、それにしても難しいのは、「唾」と同じ漢字の構成部分を持つ「垂」「睡」「錘」の音読みがいずれも「スイ」なのに、「唾」だけが「ダ」であることです。「唾液(ダエキ)」という語を知らなければ、読めないかもしれません。
3.「凸凹」
ところで、「人々」や「数々」などに使う「々」を「漢字」だと思っている人はいませんか。「々」は「すぐ前の漢字一字を繰り返す」という「記号(符号)」です(「同の字点」「ノマ」などと呼ばれます)。
その反対に、「凸凹」の「凸」と「凹」を「記号」だと思っていた人がいるのではないでしょうか。どちらも、常用漢字に含まれる漢字です。では、「凸凹な道を歩く」の「凸凹」は、何と読みますか?
「オウトツ」と読んだ人がいると思いますが、「オウトツ」は「凹凸」で並びが逆です。正解は「でこぼこ」でした。「凸凹(でこぼこ)」も「凹凸(オウトツ)」も意味は同じですが、「凹凸」のほうは、音読みだけに漢語的表現と言えるとともに、「名詞」の用法しかありません。
なお、漢字である「凸」「凹」の筆順や総画数は、漢字検定や漢字クイズの定番問題です。ポイントはどちらも左上の横棒から始めますが、横画から一筆では上にはいきません。しかし、横画から下に行くときはそのまま二回曲がって先まで進んでください。画数はどちらも五画です。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第七版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「なぜなに日本語」(三省堂)
・「難読漢字の奥義書」(草思社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)