同じ漢字を使った熟語でも複数の読みを持つものがあります。その多くは二通り程度ですが、中には一筋縄ではいかないものもあります。その代表語が「下手」です。「下手な絵」とか「下手の横好き(=技能を持ち合わせていない人がやたらのその芸能などをしたがること)」などに使われる「下手」は、もちろん「へた」と読めますよね。でも、「相手を恐れて下手に出る」とか「相撲の決まり手は下手投げ」だったら……「したて」と読めますね。実は、まだまだ違う読みがあるんです。
「へた」と読まない!下手の別の読み方3選
1.「ステージの下手から入場する」
この「下手」は舞台用語と言えるでしょう。さて、何と読むでしょうか?
正解は「しもて」です。音楽や演劇の舞台では、右(あるいは左)と言っても、舞台側から見て右なのか、客席側から見てそうなのか、わからなくなってしまいますよね。そのために、客席側から見て左を「下手」、同じく右を「上手(かみて)」と呼んで混乱を防ぎます。なぜそう呼ぶようになったかについては、諸説があるようです。
2.「下手人を捕らえる」
この「下手人」は、今ではテレビや時代劇や時代小説ぐらいでしかお目にかからないでしょうか。さて、何と読みますか?
正解は「げしゅにん」です。「手を下した人」、つまり、凶悪な事件などの犯人を指します。古くは「げしにん」とも使われていました。
3.「下手物趣味」
「下手物」とは、「一般の人から顧みられない風変わりなもの」の意味で広く使います。たとえば、食べ物だったら、「下手物食い」というように。さて、こちらは何と読みますか?
正解は「げてもの」です。因みに、反対語となる「上手物」は「じょうてもの」と読み、こちらは、特に「精巧で高価な工芸品」いう意味に限定して使うことが多いようです。
ちなみに、「へた」と言うもっとも一般的な読みは、常用漢字表の付表に示され、小学校で習います。この付表とは、いわゆる当て字や熟字訓など、一字一字の音訓には該当しない特殊な読みのうち常識的なものを集めたもので、反対語の「上手(じょうず)」や「今日(きょう)」「小豆(あずき)」「眼鏡(めがね)」など、116語が含まれます。では、また次回。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第七版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第二版」(大修館書店)
・「1秒で読む漢字」(青春出版社)
文/田舎教師 構成/CLASSY.ONLINE編集室
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