木村文乃さん(37) 「”幻のシーン”を演じた際、胸が熱くなりました」【 映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』インタビュー】

「言葉は、誰かを深く傷つけることも、そっと支えることもできる」
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』は、そんな“言葉の力”と向き合う物語です。木村文乃さんが演じるのは、児童に凄惨な体罰をしたとして告発された小学校教諭(綾野剛)を支える妻・希美。事件を通して見える“それぞれの真実”に寄り添いながら、彼女が見つめ直したのは、「救いとは何か」、そして「結婚」や「家族」をどう捉え、どう支え合うかということでした。
Profile
1987年生まれ、東京都出身。2004年に映画『アダン』で女優デビューし、同年『風のダドゥ』で主演を務め注目を集める。以降、話題の映画やドラマに多数出演。2014年にはエランドール賞を受賞。確かな演技力と透明感のある佇まいで幅広い世代に支持されている。Instagramで披露される“今日のごはん”も、丁寧な暮らしぶりが話題に。
「救いって、いったい何だろう?」“言葉”の重みを見つめ直すきっかけに

——本作は、20年前に日本で初めて「教師による児童へのいじめ」が認定された体罰事件を追った、ルポルタージュが原作の映画です。脚本を初めて読まれたとき、どんな印象を受けましたか?
事件当時、私はまだ幼く、詳細は知りませんでした。ただ、どこかで聞いたことのある『でっちあげ』というタイトルに引っかかりを感じつつ読み進めると、「救いって、いったい何だろう?」という問いが、静かに心に湧き上がってきたんです。これは過去の出来事ではなく、自分の中にも響く“今の話”だと感じました。
――現代は、誰もが“加害者”にも“被害者”にもなり得る時代とも言われます。
本当にそう思います。だから私は、「声が出せるときには、出していい」と考えています。
SNSには強い言葉や誤った情報が溢れていますよね。だからこそ、「何を信じ、何を手放すかを自分で選ぶ力」を学ぶことは、今いちばん大切なことだと感じます。
――SNSとの向き合い方で気をつけていることはありますか?
攻撃的な言葉を見かけたときは、「これは誰のための言葉なんだろう?」と問いながら距離を取ることもあります。一方で、背景や文脈を丁寧に掘り下げた記事には、できるだけ目を通すようにしています。そこには“視点を育てる学び”があるからです。
「そばにいる」ことが、支えるということ
――薮下誠一の妻・希美という役柄を、どのように捉えて演じましたか?
綾野剛さんが演じられた薮下誠一は、“殺人教師”とまで呼ばれてしまった小学校教諭。家庭の中では、夫の感情に触れることができても、学校での彼の姿までは見えない。だからこそ、私にできたのは「ただ、そばにいること」だけだった。そんな感覚に近かったです。
もし自分が希美の立場だったら、あそこまで強くいられる自信は、正直ありません。希美は、どんな状況でも夫のために最善を尽くす覚悟を持った人。演じながら、彼女への深い尊敬の気持ちが自然と湧いてきました。
――演じる中で、特に印象に残っているシーンはありますか?
本編には入らなかったのですが、“幻のシーン”として今でも覚えているのが、息子が夫を見送る場面。私は少し離れた場所から、その背中を静かに見守っていました。その瞬間、「人は、誰かがそばにいてくれるからこそ、どんなに厳しい状況でも立ち続けられるんだ」と、胸が熱くなりました。
家庭を持つ前は、家族という存在にそこまで特別な思いはありませんでした。でも今は、家族がいかに大きな支えであり、温かい力を与えてくれるものかを、日々実感しています。その想いが、役を通して自然とにじみ出たのかもしれません。
“結婚するか”より、“どう支え合うか”という視点で生きる

――木村さんは結婚を経験して、ご自身にとって何か変化はありましたか?
結婚することで、日々の暮らしや価値観が劇的に変わるわけではありませんでした。
それよりも「支え合える関係性を築けるかどうか」が大切なことに気づかされました。お互いが無理なく尊重し合える関係こそが、理想。そこにある信頼や安心感が大切です。
——最後に、『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』を通してどんなことを感じてほしいですか?
映画って、エンターテインメントですから、希望や未来を感じさせるような終わり方のほうが観る人にとっては安心感があると思うんです。でも、この作品ではそういった選択をあえてしなかった。その理由は、「なぜこのテーマを今、世に出すのか?」という問いに真っ直ぐ向き合っているからこそだと感じました。そのぶれなさに、私はとても心を動かされました。
観終わったとき、「これは自分にも起こり得ることだ」と感じてくれたなら、そして言葉を使うときに「その先にいる誰か」をほんの少しでも思い出してくれたなら、それがこの作品の願いだと思います。
information
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』で木村文乃さんは、世間から“殺人教師”と呼ばれた薮下誠一(綾野剛)を、どんな時も信じ支え続ける妻・薮下希美を熱演。深い愛と葛藤を繊細に描きます。6月27日(金)公開。
出演者:綾野剛 柴咲コウ
亀梨和也/大倉孝二 小澤征悦 髙嶋政宏 迫田孝也
安藤玉恵 美村里江 峯村リエ 東野絢香 飯田基祐 三浦綺羅
木村文乃 光石研 北村一輝/小林薫
監督:三池崇史
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
脚本:森ハヤシ
音楽:遠藤浩二
主題歌:キタ二タツヤ「なくしもの」(Sony Music Labels Inc.)
制作プロダクション:東映東京撮影所 OLM
制作協力:楽映舎
配給:東映
🄫2007 福田ますみ/新潮社 🄫2025「でっちあげ」製作委員会
トップス¥137,500 スカート¥71,500(共にリヴィアナ コンティ/イザ)ピアス¥308,000(片耳)(オー/ハルミ ショールーム)パンプス¥186,200(セルジオ ロッシ/セルジオ ロッシ ジャパン カスタマーサービス)
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イザ 0120-135-015
ハルミ ショールーム 03-6433-5395
セルジオ ロッシ ジャパン カスタマーサービス 0570-016600
撮影/木村敦(Ajoite)ヘアメイク/井村曜子 /スタイリスト/岡本純子 /取材/池田鉄平/編集/越知恭子(CLASSY.編集部)
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