「間違っているかもしれない」「私なんかが…」と、ついつい考えてしまいませんか?私たちが自信を持てないのは社会に原因があります。「女性が自信を持ちづらい問題」と向き合う識者と根本となる原因を考えました。
【対談】私たちが自信を持てない原因は「社会構造」にあった!?
SNSを見て、誰かと比べて自分以上のものを求めて自信をなくす人が多い今
瀧波:辻さんは多分野で活躍されていますが、今の20~30代の方って有名になってもドヤ感がないですよね。私が辻さん世代だった頃に活躍していた20~30代とは違って、自分に自信を持っていることを隠さなきゃいけない風潮があるように思います。「私なんてまだまだです」って姿勢が良しとされる。
辻:そうですね。いろんな要因がありますけど、やっぱりSNSの存在は大きいです。今って自分の投稿の次にいきなり海外スターの投稿が並ぶような時代じゃないですか。だから自分もまわりも、自然と他の誰かと比べて相対評価になるんですよね。みんな自分に求めるレベルを上げすぎて減点方式で見てしまう。情報が容易に手に入る時代になったことによる弊害だと思います。
瀧波:そうですね。X(旧Twitter)が登場し、利用者が増えた2010年以降、みんな自分をあらゆる人と比べるようになったから、今回のテーマの「自信が持てない」理由のひとつはまずそこにあるのかなと。
辻:比べているつもりはなくても「あれ、私って幸せだと思ってたけどじつは幸せじゃないのかな」と考えてしまったり。自分の生活の範囲と関係ない場所まで視野を広げて幸せの及第点を上げ、背負っている傾向はあるのかなと思います。
男性は立場が変わっても社会的評価が上がるけれど女性はそうはならない風潮
瀧波:それからジェンダー問題もありますね。私がジェンダー問題に関心を持ったのは、自分自身の生活を通して女性は置かれる立場によってまわりの見る目、接し方が変わるんだと気づいたことにありました。
辻:どう変わるんですか?
瀧波:独身、既婚、子持ちかどうかによって、例えば子育て支援の相談に行けば「お母さん」と呼ばれるとか。男性もそうでしょうけど、男性って立場が変わっても加点方式なんですよ。会社で役職がついて、家庭・子供を持って、重圧や苦しさはあるけれど1+1=2にできる。でも女性はそうはならなくて…。
辻:女性ってすでに存在する男社会レーンを走らなきゃいけないことが多いのに「女」も維持しなきゃならない。妻や母として家庭も維持しなきゃいけない、でも全部持っているとそれはそれで何か言われたり…ということですね。
瀧波:そうそう。そして男性はたとえば家庭を持つと大黒柱だとして昇給があるなど加点方式のギフトが与えられるのに、女性にはそれが用意されていない。さらに女性の成功を喜ばない世間からの肘鉄をよけながら走らないといけない…そんなふうにいろいろと削られながら人生が続いていくのが今の女性たちですよね。その上、女性だけ社会的な及第点がどんどん上がってて、最近は「男性と同じだけ働きながら子供を二人以上産んでお受験もこなし外見もキレイでいる女性」が目指すべきロールモデルとなっています。これでは誰だって「あれ、私って何か足りてないのかな?」と思ってしまう。
辻:わかります。一人前チェックリストというものがあったとしたら、女性のほうがチェック項目が多いなと思います。冒頭で瀧波さんが言ったように、自信があったとしてもないフリをするのは「女」として求められてしまう規範のひとつだったりするんですよね。しっかり実績を積み上げていても、女性だからというフィルターで評価してくる外部の目線によって「私って本当は足りない部分があるんじゃないか」とインポスター症候群に陥る。これも現代女性が自信を持てない要因のひとつじゃないでしょうか。
同じ気持ちの人と連携を取る、言葉を知る、ひとりの時間を持つことで自信を回復させて
辻:私が子会社経営をしていた時代に、グループ会社の役員が集まる会議が定期的にあって私は最年少だったんですね。私が意見を述べたある日、出席していた年輩の男性役員が「辻さんは若いからわからないかもしれないけど」と頭ごなしに否定してきたことがあったんです。若い女が大きな顔して物を言うな、という空気だったんですよ。でも後からその人が言った意見は私が言っていることとまるで同じ。まわりもそれに対して何も言わなかった。実績や発言の中身ではなく、年齢や性別で判断することを当たり前にする人がいるんだなと衝撃を受けました。今でも忘れられないです。
瀧波:組織の中で当たり前に自信を奪われる環境があると、会社勤めの女性は生きていくのが本当に大変ですよね。
辻:この件は私から追って異議を唱えて謝罪されたので今は消化できているのですが、意見って実績を上げているから聞いてもらえたり、もともとの気の強さから言えるところもあるじゃないですか。みんなが言えるわけじゃない。組織のそういう体質に悩む読者の方もたくさんいると思うんですけど、困ったときは誰かに頼るとか、対象が自分じゃなくても違和感があれば助け舟を出すようにし合えると、みんな少しずつ生きやすくなるんじゃないかなと思います。
瀧波:自分がモヤっとしていたら同じような気持ちの人は絶対いる。サイレントマジョリティーの可能性も大いにあるし、そういう環境にいると学習的無力感を抱く人も多いと思うんですよ。声を上げても無視されたり、余計に居場所をなくすことになってしまったり。でも連携を取って「あなたが困っているときには私が助けるよ」と繋がることで少し自信が持てますよね。
辻:あとは、モヤモヤした気持ちの実態や言葉を知るのも大事ですよね。「インポスター症候群」「ガラスの天井」、今は「27歳症候群」という言葉も注目されているようですが、自分ひとりだけの感情じゃないと知ることで自責にならず、現象として捉えることができるし、少しだけ前を向ける気がするんです。
瀧波:自分は何もしていなくても、まわりが自信を削ってきて無価値と思わされるようにできているのが今の社会構造。そういう構造があることも一緒に知っておくといいですね。そのうえで、おにぎりサイズの自信でいいから「これだけ持っていれば私は生きていける!」と、自分を守ってほしい。
辻:そのためにも自分と向き合うひとりの時間を持つのも大事。私ってどんな人で何に幸せを感じるんだっけ…と。個人的には〝手触りのあるもの〟で幸せを実感できるのがいいと思っていて、SNSみたいに実体のないものより、料理とか、植物に水をあげるとか、ハーブティーを飲むとか、直接触れられるもの。自信って、そういう地味な日常を愛することで育まれるとも思うので。
瀧波:女性のご自愛はじつはすごく社会的なことなんですよね。ケア能力を自分のためだけに使うって大事。男性のためでも会社のためでもなくね。
話してくれたのは…
漫画家/瀧波ユカリさん
『臨死!!江古田ちゃん』ほか、著書多数。現代の女性を取り巻く現状を高解像度で描く『わたしたちは無痛恋愛がしたい ~鍵垢女子と星屑男子とフェミおじさん~』が各世代の女性読者の共感を集める。
株式会社arca代表
クリエイティブディレクター/ 辻 愛沙子さん
社会派クリエイティブを掲げ広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける。女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。『news zero』(日本テレビ)水曜パートナー。
取材/野田春香 再構成/Bravoworks.Inc