橋本環奈・ジャニーズWEST 重岡大毅 主演ホラー映画『禁じられた遊び』をレビュー【辛酸なめ子の「おうちで楽しむ」イケメン2023 vol.49】
ジャニーズWESTの重岡大毅さんが橋本環奈さんとともにW主演を務めることも話題のホラー映画『禁じられた遊び』。「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」と呪文が唱えられるティーザーだけでもかなり怖そうなこちらの作品を辛酸さんがレビュー。うんざりするような残暑の今、劇場で思い切りゾッとできること確実です。(注※コラム内でストーリーにふれています)
重岡大毅の「パパぶり」が新鮮
橋本環奈と重岡大毅がW主演しているホラー映画『禁じられた遊び』は『リング』の中田秀夫監督の作品。恐怖への期待値が高まります。今年こそ、ホラーで涼しくなりたい需要が高まっている時はないのではないでしょうか。
冒頭のシーンでは、重岡大毅演じる伊原直人が郊外の庭付き一戸建てで妻に見守られながらガーデニングしたり息子と遊んだりして、良いパパぶりを見せていました。優しいお父さん役が結構ハマっているのが新鮮です。パンフレットの監督のコメントによると「重岡さんは、息子役の子との長時間に渡るリハーサルをたいへん真摯に行ってくださり、おかげで彼の家の場面からのクランクインもたいへんスムーズでした」とのことです。たしかに父と息子の会話も自然ですが、肝心の妻とは少し距離感があるような……。ファーストサマーウイカ演じる妻の美雪は清楚な黒髪美人ですが、どこか近寄りがたい雰囲気です。一見、幸せに暮らす伊原家に忍び寄る不幸の影……。息子の春翔がトカゲの切れたしっぽを土に埋め、直人が冗談半分で再生のおまじないを教えたことがことの発端でした。
おまじないの言葉は「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」
「土に埋めて、おまじないするとまた生えてくるんだよ」。素直な息子は父の教えの通り「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」と唱え出します。穏やかな表情で見守る妻の美雪でしたが、ふと真顔になって夫に「もう私を裏切らないでね」と囁きます。たしかに、家庭的で良いお父さんに限って浮気していそうと妙な説得力が。そこからストーリーは急展開。次々と恐ろしいことが起こります。
突然、妻と息子が交通事故に遭うというショックなできごとが。妻は亡くなってしまいますが、心停止していた息子の春翔は雷の通電によって蘇生します。そこでトカゲの伏線が生きてくるのですが、母親の遺体の指を地面に埋めた春翔は一心不乱に「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム……」と復活のおまじないを唱え出します。すると、次第に土が盛り上がってくる兆候が……。ちなみに指を埋めた話とは違いますが、オカルト作家の方が以前教えてくれた実話として、中国で土葬された女性が親戚への恨みを晴らすため、ゾンビとして何年後かに土から出てきたという恐ろしい話があるそうです。今回のホラーは、土の中で成長するのでゾンビとも幽霊とも違う、栽培系の魔物という感じでしょうか。郊外で平凡な幸せを享受していた家族に、怪異の影が忍び寄ります。
妻・ウイカの思いが強すぎて生き霊に…!
一方で、橋本環奈演じる倉沢比呂子のところにも不穏な気配が。映像ディレクターの比呂子は直人のかつての同僚でした。事故のニュースを観て、気になってお葬式に参列した比呂子。そこで元同僚と遭遇し、「あんなことがあってよくここに来れたなって思ってる?」と、気になるセリフが。もしかして直人は比呂子と浮気していたのでしょうか? やはり一見家族思いのお父さんに限って……と疑念がわき上がります。息子の春翔は、なぜか比呂子を憎しみのこもった眼で睨みつけるのでした。
回想シーンになって、直人と比呂子が同じ会社で働いていた頃の場面が流れます。上司のセクハラに悩んでいた比呂子を直人が助けたことで、少し距離感が縮まった2人。比呂子は直人のことを意識するように。しかしそれから、不気味な電話の着信があったり、電気が消えたり、家で女性の存在を感じたりと恐怖体験が続きます。ある時,生まれたばかりの赤ちゃんを連れて直人の妻が会社を訪問してくるのですが、妻は比呂子の耳元で「私の夫に近付かないで」と囁きます。直感が鋭く嫉妬深くて念が強い妻・美雪は比呂子の思いに気付いて生き霊と化し、不倫を未然に防ごうとしていたようです。こんなかわいい年下の女性が夫の近くにいたら警戒するのは当然かもしれません。セクハラからガードしてくれたお礼のプレゼントを直人に渡そうとしていたのが、怪現象に邪魔されて渡せない比呂子。でも、もしかしたらこれはこれで良かったという説も。若い女性が不倫して悩んだり苦しんだりするのを、関係が始まってしまう前に防いだ生き霊はグッジョブと言っても良さそうです。マイホームパパの重岡大毅は見たくても、ズルズル不倫にハマっていく彼はあまり見たくないかもしれません。
恐怖と笑い、感情の振れ幅がすごい
しかし美雪霊は負の念が強く、死んでからも直人と比呂子を近付けまいと様々な霊障を発動。あまりにも怪現象が続くので比呂子は思わず霊能者に頼ってしまいますが、その霊能者でも太刀打ちできない怨念のパワー。護摩壇の炎が燃え上がり,火事寸前に。「仏の力も恐れぬ化物」とまで言われていました。ちなみにその霊能者、大門謙信を演じるのはシソンヌの長谷川忍。クセの強い僧侶役で、登場するだけで笑えます。その大門に行方不明になった夫の捜索を依頼する主婦役は清水ミチコが演じていました。このキャスティング、ズルいです。2人のシーンは恐怖の合間の笑いをもたらしてくれます。揺り動かされる感情の振れ幅が大きい映画です。
そうしている間にも春翔は庭の盛り上がった土に呪文を唱え、話しかけます。「ママの声が聞こえた」などと報告し、嬉しそうです。土の中から目玉が見えたりして、かなり不気味な成長ぶり。ついにある日,肉体が復活した美雪が出現。貞子に次ぐホラーヒロインになるかもしれない、インパクトのある存在感です。夫の直人も恐怖のあまり逃げ出します。日本の古代のイザナギとイザナミの神話を連想させるシーン。イザナミは亡くなった後、腐乱した姿で夫のイザナギの前に現れますが、イザナギは恐怖のあまり逃げ出してしまいます。たとえ神様でも、愛した妻が変わり果てた姿になってしまったら拒絶してしまうのかもしれません。直人は逃げるだけにとどまらず、比呂子と協力して美雪を倒そうとしていました。浮気しそうになったうえ、葬り去ろうとするなんてひどい仕打ちです。比呂子もナチュラルに魔性系で、美雪を挑発。魔性×魔物のバトルです。観る人の立場によって、美雪に共感したり、比呂子に感情移入したりと、違った楽しみ方ができる映画です。そして幸せとは一体何か、わからなくなってきます。とりあえず、優しい表情から恐怖に怯える顔まで、重岡大毅の様々な表情を見られるのは、束の間の幸せでした。
辛酸なめ子
イケメンや海外セレブから政治ネタ、スピリチュアル系まで、幅広いジャンルについてのユニークな批評とイラストが支持を集め、著書も多数。近著は「女子校礼賛」(中公新書ラクレ)、「電車のおじさん」(小学館)、「新・人間関係のルール」「大人のマナー術」(光文社新書)など。