【菊地凛子×オダギリジョー】 父娘役(!)を演じた『658km、陽子の旅』が上海国際映画祭で三冠を受賞!【スペシャル対談】

現在公開中の映画『658km、陽子の旅』でヒロイン・陽子を演じた菊地凛子さんと、その父を演じたオダギリジョーさんのスペシャル・インタビュー。前編では菊地さん初の邦画単独主演作となった今作について、また父娘役を演じたお二人にお互いの印象を伺いました。

――今作が上海国際映画祭で最優

――今作が上海国際映画祭で最優秀作品賞、最優秀脚本賞、最優秀女優賞の三冠を受賞! 完成作を観たときの率直な感想はいかがでしたか?
菊地「ロードムービーなのでほぼお話の順番通りに撮影が進んでいくんですが、使われなかったシーンやカットがひとつもなくて。自分が現場でやっていたことをすべて監督が紡いでくれたんだなと感じました。あと、陽子が特別には見えないというか。どんな人にも多かれ少なかれあるような経験がどこかにあって、たった一日の話ですけど人生に置きかえられるような瞬間があって――。自分が出ているんですけど、観ていて勇気づけられた気がします。きれい事が一切ない作品ですが、辛い経験のほうが自分自身が見えてくることもあるのかなと。ハッピーなことはハッピーなままで終わっていくけど、辛い経験のほうが奮起するというか、もう一回頑張ろうと思えるし、自分はこれができなかったんだなって自分を見つめられる。自分もしんどいときにこの作品を見れば頑張れるかなって思えるような宝物みたいな作品になりました」
オダギリ「台本を読んだ印象よりも出来あがりを見たときのほうが、陽子の気持ちに寄り添えたというか。より陽子の状況に入り込めたような気がします。今までそんなことがあまりなかったので、そういう意味でも監督がすべての過程で、すごく丁寧に陽子を描こうとしたんだろうなって感想を持ちました」

――菊地さんが演じる陽子は、2

――菊地さんが演じる陽子は、20年以上断絶していた父の突然の訃報を聞き、青森の実家へ向かいます。トラブル続きの旅の道中、陽子の前に現れる20年前の姿をした父の幻を演じたのがオダギリジョーさん。過去にも共演されているお二人ですが、もともと持たれていたお互いの印象と今作で共演して改めて感じた印象を教えてください。
菊地「私が観てきた映画にはいつもオダギリさんが出てらして、ずーっと映画のなかにいる方みたいな印象があります。独特のセンスをお持ちですし、日本の俳優さんのなかでは唯一無二のたたずまいをお持ちの方なので、クリエイターの方がオダギリさんに対していろいろ想像力が湧いて『これをやらせたい!』という気持ちになるのがわかります。縁があって何本かご一緒しましたが、いつも変わらずにいらっしゃる(笑)。たたずまいも穏やかだし、人間力を感じる瞬間がたくさんあります。今作では歳はあまり変わらないのに父と娘の役でしたが(苦笑)、現場にオダギリさんが現れた時に『こんなにカッコよくて素敵なお父さんだから陽子はこだわってたんだな、お父さんのことが大好きだったんだな』と腑に落ちました。オダギリさんでなければこうならなかったと思います
オダギリ「菊地さんにお会いする前は、見た目の印象からだと思うんですけどクールで強そうな人だと思ってたんです。でも何度か共演するたびにすごくお茶目な人だなあと思うし、意外と…不器用なんだろうなと思いますね(笑)」
菊地「そうなんです。おっしゃる通りで(笑)」
オダギリ「なんか器用そうじゃないですか。何でもテキパキやっちゃいそうで。でもそうじゃないところがすごく魅力的ですね。言い方は違うかもしれないですけど、完璧に見えて完璧じゃないところに面白さが見えるというか。毎回お会いするのが楽しみだし、待ち時間でしゃべってるときもすごく面白いなあと思いながら会話してます(笑)」

――ひとりの人間として、または

――ひとりの人間として、または女性、男性として「こんなところが素敵だな。魅力があるな」とお互いについて思うところを教えてください。
オダギリ「分けへだてがないなあっていうのは感じるんですよね。スタッフに対してもキャストに対しても相手によって態度を変えたりしないし、いつも菊地さんとして存在してくれている。海外でも評価されていて、一つ間違えると勘違いしちゃうじゃないですか(笑)。そう言う人もたくさんいるだろうけど、そんな面がまったくないから素敵だなと思いますね」
菊地「先ほどもお話しましたが、オダギリさんはこのたたずまいがすごく魅力的な人だなあとずっと思っていて、醸し出してる空気感にはちょっと癒しのパワーがあります」
オダギリ「ええーっ。そんな感じですか?」
菊地「絶対、みんなそう思ってると思いますよ。しかも男性にもそう思われてる。私、主人とよくオダギリさんの話になるんですけど、思ってることはわりと一緒です。なんか独特な唯一無二の雰囲気をお持ちで、そのペースも独特なんです。なんだか知らないうちにすごく巻き込まれちゃって、どっぷりこの空気に入っていくみたいな(笑)」
オダギリ「でも癒しになるんですね、それが」
菊地「穏やかですし、人とは違う目線をお持ちなので。今作でお父さんの役って聞いたとき『自分と歳も近いのに?』って最初は思ったんですけど、赤いキャップをかぶって出てきて…」
オダギリ「ははは(笑)」
菊地「『はっ、だから陽子はこんなにこだわってるんだ、このお父さんに』って言うのがありありとわかって。それはやっぱりオダギリさんにしか出せない空気感とたたずまいで…。セリフだってひと言もしゃべらないし」
オダギリ「そうですね。ひと言もありませんでした(笑)」
菊地「そう言う意味で、人の心を持っていっちゃう空気をお持ちなのが男性としても好きなところですね」

――菊地さんがおっしゃったよう

――菊地さんがおっしゃったように、オダギリさんは若き日の父の幻という役なのでセリフがまったくありませんでした。幻を演じるというのはどんなものでしたか?
オダギリ「そういうつかみどころのない役もたまにオファーをいただくのですが、変に作り込まず、現場での流れに順応するようにしています。今回も難しく考えると屁理屈に縛られていくと思うので、変なこだわりを持つことなく素直に演じていたのかなと思います。あくまで陽子のほうが見ている幻だろうし、父は陽子に対してどこか温度が合わないというか、すれ違いがあるってことなんだろうなと。つかもうとするんだけどつかめない、みたいな在り方がいいのかなと思っていました」

――20年前、新人の菊地さんをヒロインに抜擢した熊切和嘉監督のラブコールで実現した『658㎞、陽子の旅』。オダギリさんは20年ぶりにタッグを組んだお二人のやり取りを隣で見ながら「菊地さんはどういう心境で熊切さんの前にいるんだろう、熊切さんは成長した菊地さんをどう見てるんだろう」と、いち映画ファンとしてニヤニヤしてしまったそう。そんなお二人が父と娘を演じた今作。心を揺さぶられるロードムービーです。

菊地凛子
‘81年1月6日生まれ 神奈川県出身●’99年『生きたい』で映画デビュー。‘01年『空の穴』ではヒロイン役に抜擢。’06年、海外映画『バベル』にてアカデミー助演女優賞を含む多数の映画賞にノミネート。以降『パシフィック・リム』シリーズ、『47RONIN』など海外作品に多数出演。主な出演作は映画『ノルウェイの森』、米国ドラマシリーズ『TOKYO VIVE』、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』など。今年後期のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』に出演。

オダギリジョー
‘76年2月16日生まれ 岡山県出身●アメリカと日本で演技メソッドを学び、‘03年『アカルイミライ』で映画初主演。以降、作家性や芸術性を重視した作品選びで独自のスタイルを確立。海外の映画人からの信頼も厚い。ドラマでも活躍し、最近の主な出演作はNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』『アトムの童』など。脚本・演出・出演・編集を務めた『オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ』で東京ドラマアウォード2022単発ドラマ部門グランプリを受賞。

『658km、陽子の旅』
熊切和嘉監督と菊地凛子さんが20年ぶりにタッグを組んだ、東北縦断ロードムービー。人生を諦めて過ごしてきた在宅フリーター陽子(菊地凛子)は、20年以上断絶していた父(オダギリジョー)の訃報を受け、従妹の茂(竹原ピストル)とその家族と車で弘前に帰ることに。しかし途中のサービスエリアでトラブルが起き、置き去りにされてしまう。所持金がなくヒッチハイクで弘前に向かう陽子だが…。他の出演/黒沢あすか 見上 愛 浜野謙太 / 仁村紗和 篠原 篤 吉澤 健 風吹ジュン オダギリジョー  監督/熊切和嘉 脚本/室井孝介 浪子 想●全国公開中

【菊地さん着用衣装】ジャケット¥86,900ジャンプスーツ¥63,800(ともにCFCL/CFCL Inc.  support@cfcl.jp)その他/スタイリスト私物 【オダギリさん着用衣装】ジャケット¥60,500シャツ¥35,200ベスト¥26,400パンツ¥30,800(すべてISSEY MIYAKE/ISSEY MIYAKE 03-5454-1705)
撮影/木村 敦 ヘアメーク/中村了太(3rd)<菊地さん>、砂原由弥(UMiTOS)<オダギリさん> スタイリング/小嶋智子<菊地さん>、西村哲也<オダギリさん> 取材・文/駿河良美 構成/中畑有理(CLASSY.編集室)

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表紙モデル:山本美月

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