今回は夏デートで見てはいけない映画を4本紹介します。どれもすべて良作ですが、せっかくの夏デートでテンションが下がってしまう可能性が高いので、もし鑑賞する際にはご注意を。自己啓発できる名作や、デート作品を映画ソムリエであるライターが厳選しているので、ぜひ最後まで読んでみてください。なお、作品はすべてAmazonPrimeに加入している方ならば、誰でもPrimeVideoで無料で見られる作品です。
1.映画『X』
スプラッター度合いは高く、たくさんの血が流れ、暗く重く救いようのない作品…!?
映画に登場する恐ろしいものといえば人喰いサメ、ピエロ、ゾンビなど様々ですが、個人的に狂った老人ほど不気味な怖さはありません…。1979年のアメリカ・テキサス州。ポルノ映画の撮影のために訪れた3組の若者カップルが、欲にまみれた若者を憎む高齢殺人夫婦と農場で出会い、ひどい目にあっていく…というお話です。
スプラッター度合いは高く、たくさんの血が流れます。暗く重く救いようのない作品なのでやはりデートには向きません。しかもポルノの撮影をしている若者たちなので、具体的に伏せますが男女の絡みシーンもがっつりあり、なんとなく気まずい可能性が高いです。
主人公は薬物依存でポルノ女優という、好き勝手に自分の人生を生きている現代の若者と、女性が抑圧されていた時代の波に呑み込まれ好きに生きられなかった最恐おばあちゃんとの対比というのは、女性の抑圧というテーマが描かれていてただの恐怖ではなく、なかなか考えさせられます…。老人だからと甘くみては絶対にいけないのです。
とはいえ有名ホラー映画にオマージュを捧げていたり、嫌な奴が順々に悲惨な目にあっていく王道の展開は、ホラー好きにはたまらない作品かもしれません。ちなみに2023年7月8日から公開されている『Pearl』はこの『X』の最恐老婆が、いかにして殺人鬼に変貌していくか描いた作品。
かつてはかわいい女の子だったミア・ゴスが演じるPearl(のちの最恐老婆)が血生臭くなっていく様子からは、目が離せません。サナギから蝶がかえるような、劇的な変化が起こるのです。今年の夏には外せない、スクリーンでみるべきホラーでしょう。ベネチア国際映画祭で話題になり、ホラー映画初のオスカー候補になるのでは? と噂されるほど作品『Pearl』。こちらはチェックしてみてもよさそうです。
2.映画『女子高生に殺されたい』
タイトルから想像がつく通り、彼氏と見るのは気が引ける
タイトルの時点で、なんとなく「彼氏と観ては気まずくなりそうだ」と直感した方は正解です。女子高生に殺されたいが為に高校教師になった男が主人公。イケメン人気教師として日常を送りながら、理想的な殺され方の実現のため9年間も密かに綿密に、完璧なトンデモ犯罪計画を練っています。平和な学校内で、静かにその計画は進んでいく…というお話。主演の高校教師を演じる田中圭さんがあまりにもベストアクトで、いい意味で変態教師を体現しすぎていて、自分に好意抱く複数のJKを個別に刺激してその反応をひそかに愉しむ姿の気持ち悪さたるや否や(田中さんの最高のお芝居を褒めてます)。JKに殺されたくてたまらないという願望を抱いた教師の背景でより際立つ、女子高校生たちのキラキラした青春模様。そんな設定なので、男性が永遠に虜になる制服少女への憧憬が描かれすぎていて、なんとなく彼氏と一緒に見るのは気が引けます。ですが、ぶっ飛び設定の映画で現実逃避できますし、凝ったストーリーは映画として最後まで飽きずに楽しめますので、ぜひ別の機会にご覧ください。クライマックスが原作と異なるので、もし原作を知っている方は、その点も楽しんでみてはいかがでしょうか。
3.映画『サメストーカー』
恐怖のサメが出てこないので涼しい気持ちにはなれなさそう
夏のデートにサメ映画をチョイスするカップルが少なくないと聞きました。どこまでも広がる海のビジュアルに、恐怖のサメ描写は涼しくなりますもんね。そんなサメ映画を求めるカップルにこそ、おすすめできないのが『サメストーカー』です。なぜなら、サメはあまり出てこないし(笑)、カップルが悲惨な目に遭ってしまうお話だからです。インターネットの評価は、私自身はあまり気にしないタイプですが、この作品はなかなか低いんですね。その理由としてサメ押しのタイトルに肩透かしを喰らった方が多いからかも。でも、シリーズ化された面白い映画です。サメから弟を助けてくれた好青年ブルースは、実は最凶のストーカー。家族を救ってくれたヒーローに見せかけヒロインの家族に取り入り、SNSのチェックに家散策、どんどんエスカレートしていくストーカー行為、そしてサメの生態系を調べ尽くしたブルースのサメを使った死の罠にドン引きする展開が続きます。サメより目が鋭くなっています…。
さりげなくヒロインの部屋の鏡の前に立ち、口紅を拭いたティッシュを見つけてクンカクンカして恍惚としたり、ストーカーとしての佇まいが完璧で、ストーカー映画としては大変によくできています。
日本ではリリース順が前後していて、本作は『サメストーカー ビギニング』に続く第2作となっていますが、この作品の方が”家族の絆”が描かれていて個人的には好みです(『サメストーカー ビギニング』→『サメストーカー』→『サメストーカー リターンズ』と3作ありますので気になる方はご覧ください)。
ストーカー役を怪演したヒューストン・K・スティーブンソンは2022年に亡くなってしまいましたが、本当に素晴らしい演技を見せてくれているのでぜひその姿を見てほしいです。
4.映画『ラストナイト・イン・ソーホー』
超良作だが、人間という生き物の恐怖がたっぷり描かれている
主人公は田舎からファッションデザイナーを目指してロンドンに上京してきたエロイーズという女の子。彼女は新しく借りた60年代の古部屋でその時代に戻って、歌手を夢見るサンディという女性の記憶を追体験するという不思議な夢を見始める。そして、徐々に夢の中だけでなく、起きている間にも幻覚を見はじめていく…という現在と過去、2つの時代を生きる二人の女性の人生がシンクロしていくサイコスリラー映画です。
ちなみに自分の中では2021年に公開した洋画でベスト5に入るくらいよかったので、怖いかも? と避けるのは少々もったいない作品です。
ストーリー、音楽、映像美、謎解き要素と見どころ満載なのですが、カップルで見るのはあまりオススメできません。というのは、人間という生き物の恐怖がたっぷり描かれているからです。監督は男性で、日常的に女性が体験する恐怖や、女性にとっては目を背けたくなる暴力描写が多い作品なのでデートには要注意です。また「夢を追いかけることは改めて大変だ」とどんよりした気持ちにもなる作品なので、夏には浮かない気がします。ただ、1960年代のソーホーにタイムスリップしたような建物やネオンの光に包まれ、非日常感とセンスよい音楽で、別世界に連れて行ってくれる映画体験であることは間違いないので、機会を見つけてご覧ください。
いかがでしたか?「夏に観てはいけない映画」を映画ソムリエ・東紗友美がお届けしました。
映画との出会いは一期一会。タイミングを意識した映画選びを。素敵な夏を過ごせますように。
今回の記事「大人女子のための映画塾」を執筆したのは…
東 紗友美(ひがし さゆみ)
’86年、東京都生まれ。映画ソムリエ。元広告代理店勤務。日経新聞電子版他連載多数。映画コラムの執筆他、テレビやラジオに出演。また不定期でTSUTAYAのコーナー展開。映画関連イベントにゲスト登壇するなど多岐に活躍。
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Instagram:@higashisayumi