2022年紅葉のフィナーレを飾るのは、やはり世界的観光地・京都の紅葉でしょう。ニュースでも毎日のように特集が組まれ、JR東海のあのCM曲(『サウンドオブミュージック』より「 My Favorite Things」)を耳にしてしまうと、「週末に思い切って行ってこようかな」なんて気持ちになる人もいることでしょう(そうそう、あのキャッチコピーは「そうだ、京都行こう。」ではなく、「そうだ 京都、行こう。」が正しいです)。
というわけで、今回は久しぶりに難読地名の「京都特別編」、それも駅名です。
「嵐電(らんでん)」をご存じですか? 正しくは、「京福電気鉄道 嵐山本線」。京都市内の西エリアを愛らしい姿でトコトコ走る電車で、一部路面電車として走る区間もあり、嵐山巡りに便利であるだけでなく、乗車自体が観光にもなりますのでおすすめです。関東の「さくらトラム(都電荒川線のことです)」や「江ノ島電鉄(江ノ電です)」と同じく、少し走ってすぐ停まる路線で、わずか13駅ですが、いい感じの駅名の宝庫なんです。今回は、ここから独断で5駅選びます。では、始めましょう。
1.「西院」
最初は、嵐電の起点「四条大宮」駅のお隣、「西院」駅です。これは「さいいん」か「せいいん」でしょう、と思った方、実はどちらも違います。
正解は、「さい」でした。すぐ近くに後から出来た阪急電車の「西院」駅があるのですが、こちらは普通に「さいいん」と読むのが実に紛らわしい。地名の由来も、平安時代の「淳和(じゅんな)天皇」の離宮が置かれ、この別名が「西院(さいいん)」であったからという説。現在の「佐井(さい)」通り」が、もとの「道祖(さい)大路」で、これに沿って佐比川が流れていたことからという説などがありますが、いずれにしても、昔から「さい」と「さいいん」と二つの呼び方があり、現在でもその両者が通用するようです。
2.「蚕ノ社」
次は、そこから4駅先の「蚕ノ社」駅です。一見すると難しそうですが、これは「蚕」と「社」は、どちらも常用漢字ですから、この訓読みがわかれば読めます。
正解は、「かいこのやしろ」でした。近くに、「木島坐天照御霊神社(このしまにますあまてるみたまじんじゃ)」があり、本殿の東側にある摂社(付属の社)が「蚕の社」と呼ばれていたことから、神社全体の通称となりました。
3.「太秦広隆寺」
次は、そのお隣「太秦広隆寺」駅です。日本の国宝第1号に認定された「弥勒菩薩(みろくぼさつ)像」のある「広隆寺」はそのままですが、問題は頭の「太秦」が読めるかどうかです。
正解は、「うずまさこうりゅうじ」でした。古代、この地を領した秦(はた)氏が、朝廷に絹を献上する時に「うずたかく」積み上げたというのが、由来の一つです。この地の観光スポット「太秦映画村」にもこの地名が付きます。
4.「帷子ノ辻」
次は、さらにお隣「帷子ノ辻」駅です。私的には、ここが「嵐電」一番の難読駅名だと認定します。「帷子」は、高校時代の古典の時間にちらっと登場します。
正解は、「かたびらのつじ」でした。この地は、「辻=別れ道」の通り、古くからの分岐でしたが、「嵐電」も嵯峨・嵐山方面へ行く「嵐山本線」と北野天満宮方面へ行く「北野線」の乗換駅です。「かたびら」の由来は、その道の方向が「片側」のみに偏っていたことによるとも、皇族の葬送の際に棺を覆った「帷子」が風に吹かれて落ちたことによる、とも言われます。「帷子」とは「一重の絹布、裏地を付けない衣服」のことです。
5.車折神社
最後は、一方の終点「嵐山」駅の三つ手前の「車折神社」駅です。まあ「神社」は読めるとして、問題は「車折」ですよね。これもなかなか読めません。
正解は、「くるまざきじんじゃ」でした。鎌倉時代の後嵯峨天皇が嵐山にお出かけになった時、この社の前で「牛車(ぎっしゃ)」の「轅(ながえ)=車の前方の突き出た2本の棒」が折れたというのが、その名の由来です。現在では、金運招来・商売繁盛のご利益がある他に、芸能の神様を祀(まつ)る芸能神社が境内にあることから、芸能人も数多く訪れることで知られています。
いかがでした、ちょっと行きたくなりましたか? まだ、紅葉は間に合うと思いますよ。では、また次回。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「古語林」(大修館書店)
・「京都・観光文化検定試験 公式テキストブック」(淡交社)
・「京都の不思議」(講談社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)