桜前線も日本列島を北上し、まさに春爛漫です。この時期に、よく聞く「爛漫(ランマン)」という言葉は、「花が咲き乱れているさま」を表わします。今回は、そんな今の季節にぴったりの風物詩にまつわる漢字を集めてみました。
1.「花筏」
開花宣言や満開を待ち望み、私たちの目を楽しませてくれる桜も、やがては落花の時を迎えます。しかし、桜の花は、はかなくも散る姿もまた素敵です。「花筏」は、春風に誘われるかのように花が散る、その美しい光景を表わす言葉です。さて、何と読むでしょうか?
正解は「花筏(はないかだ)」でした。「筏」は常用漢字外ですが、「いかだ」と訓読みし(音読みは「ハツ/バツ」)、「木や竹を横に並べて結び、水に浮かべたもの」。木材の運搬や舟そのものの代用として使います。「花筏」とは、本当の筏ではなく「川に散った花びらが帯のように水面を流れ下る様子」を「筏」に見立てたものです。日本で古くから使われていた言葉のようで、実はそれほど用例はないようですが、言い得て妙の美しいたとえですよね。
2.「朧月」
夜桜見物などで、桜の花との相性がぴったりなのが、「ぼんやりとかすんだ春の夜の月」ではないでしょうか。この月を形容する言葉「朧月」です。さて、何と読むでしょうか?
正解は「おぼろづき」でした。音読みで「ロウゲツ」とも読みます。常用漢字外の「朧」は、「月の光のうすくぼんやりしたさま」を意味する漢字です。月の形容以外でも「意識が朦朧(モウロウ)とする」などで使います。
余談ですが私は、この「朧月」という言葉を聞くと、かつて小学校の音楽の時間に歌った、「菜の花畠(ばたけ)に入日(いりひ)薄れ、見わたす山の端(は)霞(かすみ)ふかし」で始まる、唱歌「朧月夜」を思い出します。
3.「小糠雨」
「春の雨=春雨(はるさめ)」というと、どんなイメージを持ちますか?桜の「花散らし」のような風雨も時にはありますが、私はやはり「静かに降る細かい雨」がイメージです。そんな雨の形容が、「小糠雨」です。さて、何と読むでしょうか?
正解は「こぬかあめ」でした。「小糠(粉糠)」とは、「玄米などを精白する際に分離した薄い果皮」のこと。お漬物の「糠漬け」やことわざ「糠に釘=いくら努力しても手ごたえにないこと」の「糠」です。あの粉よりも細かな雨という形容です。
実は「小糠雨」は春限定というわけではなく、四季に関係なく使える言葉です。ですから、今回の出題「花筏」「朧月」は春限定で、俳句でも「春の季語」として使われるのとは違います。しかし「春雨=小糠雨」のイメージを持つ人は多いのではないでしょうか。細かな雨に濡れる桜の木を窓越しに眺めるなんていうのも、風情(ふぜい)あるものです。
さらに余談ですが、私が「小糠雨」という言葉を初めて知ったのは、幼い頃にヒットした歌謡曲「雨の御堂筋」(歌手:欧陽菲菲)でした。
いかがでしたか。今回は今を盛りに咲く「桜」にまつわる言葉を取り上げてみました。来年こそは、かつてのように、「マスクなし」の桜見物ができるようになってもらいたいものですね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)