「留学」は「リュウガク」と読み、「守備」は「シュビ」と読むのに、「留守」は「リュウシュ」ではなく「ルス」と読みます。このように、漢字には二種類の音読みを持つものがあります。まず、音読みとは、昔の中国語の発音が日本語風に変化したもの。その中心となっているのは、奈良時代から平安時代の初めにかけて、遣隋使や遣唐使によって入ってきた都長安の最新の中国語である「漢音」です。しかし、それよりもずっと古い時代に、大陸からの渡来人によってもたらされていた、中国の南の地方の古い中国語である「呉音」がありました。このように、漢字の音読みには古い読みといえる「呉音」と新しい「漢音」がりますが、時代遅れとなった「呉音」も一部は生き残りました。
今回は、二字の熟語で、両方の漢字を「呉音」で読むものをいくつか取り上げてみます。
1.「希有」
最初は「これまでの歴史で例がない希有な事件」などと使う「希有」です。さて、何と読むでしょうか。「キユウ」と読んだ人はいませんか?
どちらも常用漢字ですが、常用漢字表では「希」は「キ」のみが、「有」は「ユウ」「ウ」の二つの音読みが示されます。このうち、「キ」「ユウ」が「漢音」、「ウ」が「呉音」です。これは「有無(ウム)」「有頂天(ウチョウテン)」などでおなじみですね。では「希」の「呉音」は?実は常用漢字表での記載がないだけで、「ケ」という「呉音」の読みがあるのです。
したがって正解は「希有」は「ケウ」と読み、「めったにないこと。きわめて珍しいこと」を表します。なお、「稀有」と常用漢字外の「稀」を使う表記もありますが、読みも意味も同じです。また、「希」「稀」とも、「まれ」と訓読みすることも覚えておきましょう。
2.「久遠」
次は「久遠の理想を抱く」などと使う「久遠」です。さて、何と読むでしょうか。「キュウエン」と読んだ人はいませんか?
こちらもともに常用漢字の熟語ですが、常用漢字表では「久」は「キュウ」「キ」の二つの音読みが、「遠」も「エン」「オン」の二つの音読みが示されます。このうち、「キュウ」「エン」が「漢音」、「ク」「オン」が「呉音」です。
したがって、「久遠」は「クオン」と読み、「かぎりなく続くこと。永遠」の意味を表します。
3.「緑青」
最後は「銅板の表面がさびて緑青が吹く」などと使う「緑青」です。さて、何と読むでしょうか。「リョクセイ」と読んだ人はいませんか?
こちらも、ともに常用漢字の熟語ですが、常用漢字表では「緑」は「リョク」「ロク」の二つの音読みが、「靑」も「セイ」「ショウ」の二つの音読みが示されます。このうち、「リョク」「セイ」が「漢音」、「ロク」「ショウ」が「呉音」です。「ショウ」の例語は、「群青(グンジョウ)」を目にすることがあるでしょう。
したがって、「緑青」は「ロクショウ」と読み、「銅の表面に生じる緑色の錆(さび)」の意味を表します。
今日紹介した「呉音」は、「漢音」に比べて用例が少なく、特別な読み方だという気がするでしょう。それは、新しく入ってきた「漢音」のほうがよく使われるためです。逆に「呉音」には、それぞれの漢字が持っている長い歴史を感じます。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「難読漢字の奥義書」(草思社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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