こんにちは。田舎教師です。今回は、前回に続いて慣用句を取り上げます。慣用句とは、「二つ以上の語が結びついた形で使われ、全体である特定の意味を表わすもの」。たとえば、「油をしぼる(=叱ったり責めたりして、きつく懲らしめる)」の類です。この中には、意外と読み間違いをしやすいものが多くあります。かりに自分で使うことはなくても、他人の発言や文章の中で、見聞きすることがありますので、読み方や意味は知っておきたいですね。
では始めましょう。
1. 「血肉となる」
最初は、「今回の経験は、私の血肉となりました」などと使われる「血肉となる」です。さて、何と読みますか?
―― 常用漢字表では「血の読みは、「ケツ/ち」の音訓が示されます。「血肉となる」と同じような意味で使える「血となり肉となる」は、「ちとなりにくとなる」と読みます。そこから「ちにくとなる」と読んだ人がいるでしょう。しかし、こちらの正解は「ケツニクとなる」です。「血肉」とは、もちろん人間の「血と肉」のことですが、慣用句として「血肉となる」と使う場合は、「知識や経験などが身に付いて自分の将来に役立つものとなる」という意味になります。
2.「益もない」
次は、「何の益もない話を聞かされた」などと使う「益もない」です。さて、何と読みますか?
―― 常用漢字表では「益」の読みは、音読みの「エキ/ヤク」が示されています。そうなると、「エキもない」と「ヤクもない」の二つの読みが考えられますが、正解は「ヤクもない」です。
「エキ」の読みは漢音(中国の唐の時代の都での発音)で、「利益」「無益」など「益」を含む多くの熟語は「エキ」と読みます。それに対し、「ヤク」が呉音(日本に最も古く伝わった発音で、「神仏の御利益(ゴリヤク)」は皆さんおなじみですね。
3.「二進も三進も」
最後は、「行き詰まって、二進も三進も行かない」などと使う「二進も三進も」です。常用漢字表では「進」の読みは、「シン/すすむ・すすめる」の音訓が示されますが、もちろん、そのまま「ニシンもサンシンも」と読むわけではありません。さて、わかりますか?
―― 正解は「にっちもさっちも」でした。
まず、この慣用句の意味です。「物事が行き詰まって身動きが取れないさま」、言い換えれば「どうにもこうにも」で、文末に「~ない」などの否定表現を求めます。この「二進」「三進」とは、もともとは「算盤」用語です――「算盤」は読めますね。そう、「そろばん」です(最近は渋沢栄一の『論語と算盤』の書名でよく目にしました)。
この本来は「ニシン/サンシン」と読む言葉が発音変化して、「ニッチ/サッチ」もなったと考えられます。「二進」とは「2÷2」、「三進」とは「3÷3」のことで、どちらも答えは「1」で割り切れます。こうして、「2や3でも割り切れない数」を「二進も三進も行かない=計算が合わない」と言うようになり、これがさらに上記の意味を表わすようになったというわけです。
今回の慣用句はいかがでしたか? 皆さんも、慣用句を正しく使いこなして、「大人の会話」を目指してください。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「広辞苑 第六版」(岩波書店)
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「古語林」(大修館書店)
・「読めそうでギリギリ読めない漢字」(河出書房新社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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