高い歌唱力を誇り、正統派の日本物から色気溢れる男役まで幅広くこなした、元宝塚歌劇団トップスターの望海風斗さん。卒業後の活躍に期待が集まる中、ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』への出演が決定! 今回は、卒業にまつわるエピソードや宝塚時代の思い出についてお聞きします。
PROFILE
望海風斗(のぞみふうと)●2003年宝塚歌劇団に89期として入団。2017年 雪組トップスターに就任。真彩希帆とのトップコンビは、宝塚随一の歌唱力と評される。2021年4月 退団。同年8~10月には初コンサート『SPERO』を開催。2022年1~2月には初ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』の出演が決定している。
—宝塚退団後の初コンサート『SPERO』を終え、次は初ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』を控えている望海さん。コンサートをやり終えた感想と、ミュージカルに対する意気込みを教えてください。
コンサートに取り組んだ時間は、とてもいいものだったなと実感しています。宝塚を卒業して『エリザベート』のガラコンサートに出演しましたが、その先に向かって自分を奮い立たせることができるのか不安だったんです。燃え尽き症候群のような感じで。そんな状態でコンサートの準備をし始めたのですが、「もっと歌を追求したい!」という気持ちが芽生えました。覚悟が決まってからは、キャスト、スタッフ、ゲストの皆さまに助けてもらいながら、新たな発見に出会う旅をしているような数ヶ月間を過ごせました。コンサートに向けた時間を経たことで、肩の力を自然に抜くことができ、素の自分に戻れた気がします。
ミュージカルについては、自分の中で「これだ!」と思える出会いがあったらいいなと思っていた時に『イントゥ・ザ・ウッズ』の魔女のお話を頂いて。自分が宝塚のときに追及してきたことが活かせる気がしたので、卒業後最初の役としてはリスクの高い難しい役ですが、やるなら大きな挑戦を!と出演を決めました。
—実際にお稽古がスタートしてみて、いかがですか?
最初に台本を読んだときは、全く意味がわからなくて戸惑いました。宝塚でも複雑な作品に取り組むことが多かったのですが、それでも最後はめでたしめでたしとなるのが宝塚の美学。でも、今回の作品はいろんな課題を残して終わっていくので、これをどうやって表現すればいいのだろうと日々考えながらお稽古しています。宝塚にいたときは、まず男役ということが大前提にあり、キャラクターも濃く作ることが大切だったんです。今回も一癖ありそうな魔女ですが、魔女をやっているという感覚はあまりなくて、台詞を自分自身の言葉でしゃべるという感じです。でも、これが私には難しくて…。乗り越えないといけない壁になっています。そして、歌もとても大変で。綺麗に歌うというより、曲に込められた感情を表現しないと成立しないので、言葉をきちんと自分の中で消化して発していかないといけません。なので、今まではこう歌っていたからということは考えないように気をつけています。沢山もがいて消化して、感情の機微をお客様にお届けできるように歌いたいです。
—CLASSY.では「自分も周りもハッピーに」という“ウェルビーイング”な価値観を大事にしているのですが、望海さん自身の“ウェルビーイング”を教えていただけますか?
自分だけでなく皆で幸せになろうという考え方って素敵ですよね。舞台に立つ者として、観に来てくださるお客様に幸せになってもらいたいなと思って作っているので、すごく共感できます。
前は、舞台のことを一番に考えるあまり、周りの人たちや家族との時間を後回しにしてきたと思うんです。でも、最近は一番近くにいる人たちのありがたさを痛感しています。すぐそばにいる人と、もっともっと幸せな時間を過ごしたいなと思っていたところだったので、改めてウェルビーイングな考えに共感しました。
—雪組の皆さんとのエピソードはありますか?
トップの私に皆が気を遣ってくれていました。特に公演中は体力的にも精神的にもハードなので、毎日変わらない空気感を作ってくれるのがありがたかったです。私が少しでも疲れていそうだと声をかけてくれたり、下級生は笑わせてくれたり。私がぽろっと「お腹すいた」とつぶやけば、お菓子が出てきましたね(笑)。甘い物に限らず、私が何を必要としているのか皆が察してくれました。私も皆に元気に舞台に立って欲しかったので、私からも声をかけたりして。そんな思いやりがあって成り立っていたんだなと思いました。
今、宝塚以外の方とお仕事していると、皆さまが本当に自立されていることに驚いています。私も皆に気遣ってもらわなくても大丈夫なように、一人の人間としてもっともっと強くならないと!と思っています。
—卒業された今もお忙しそうですが、どんな毎日をお過ごしですか?
今も忙しいですが、宝塚の忙しさとは違います。宝塚の時は、朝からお稽古、夜までお稽古、時間を見つけたらお稽古…。ほぼお稽古場にいましたね。家にいるよりお稽古場にいる方が落ち着くという感じに、自分を追い込んでいた気がします。今はいつでも使える劇団のお稽古場がない分、時間があるときはお散歩してみようかなとか、気持ちを上手くシフトチェンジして毎日を楽しく過ごしています。
—CLASSY.が同期の明日海りおさんを取材したときに「望海に引っ越しのアドバイスをしようとしたら終わっていた。彼女はしっかりしているので」と聞きましたが、東京の生活には慣れましたか?
慣れないです (笑)! 20年ものどかな宝塚にいましたから。実家は神奈川ですけどそんなに都会ではないので、東京の人の多さに驚きます。それと、東京は夜でも明るいですよね。宝塚は20時には真っ暗でした(笑)。引っ越しは、私ではなく母が頑張ってくれたおかげで、私は全然しっかりしていないんです。
—月城かなとさんが月組トップになったのを望海さんに報告したとき「トップにならないとわからないよ」とアドバイスを頂いてとても腑に落ちたとおっしゃっていましたが、望海さんがトップになったからこそわかったことを教えてください。
トップになってわかったのは、想像していた以上に大変だということ。二番手の時に早霧せいなさんの隣にいて、トップは大変だと実感していたのに、トップスターが抱えている大変さを半分も理解できていませんでした。その立場にならないとわからないことってあるんだなって。体力、精神共にハードな中、一定のクオリティを保って公演を続けるトップの責任はすごいものでした。夜寝るのも、朝起きるのも怖かったです。次の日に体調が悪くなったら、朝起きて調子が悪かったらどうしようって。
でも大変さ以上の喜びもあって。公演の最後のパレートでお客様と雪組の仲間たちに迎えてもらう瞬間というのは…。あれはトップでないと見られない景色、トップでないと知ることができない幸福感でした! 今のトップさんたちも本当に大変だと思います。大変ですが、トップの重圧を感じるだけでなく、少し気を楽にしてもらいたいなと願っています。
–ファンの皆さまに向けて、これから目指したいことや挑戦したいことを教えていただけますか?
私、目指していることがないんですよ。宝塚がとても大きな目標だったので。卒業した今は、目指すものを探している時期です。
—いつも新たな目標に真っ直ぐ向かっているイメージがあるので、とても意外です。周りからの客観的な意見を大事にしていると聞きましたが、それは昔からですか?
最近です。トップになってからですかね。トップになるまでは自分との勝負が大事な世界だったので、自分をどう見せるか、セルフプロデュースしないといけませんでした。でもトップになって、やらないといけないことがたくさんで手に負えなくなったときに、初めて周りの皆に甘えてみたんです。そうしたら、自分の知らない自分に出会えて、それが結果的にすごくよかったんです。自分だけで頑張ることがベストではないんだと気づくことができました。宝塚を卒業した今、自分が頑張ることが大切なのは重々承知していますが、新しい世界やたくさんの方と出会える時期なので、まずは視野を大きく広げようと思っています。そして、その上でやりたいことを見極めていくことが私の目標です!
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宝塚と違う世界に驚きながらも、新たなペースで過ごす望海さん。次回は、今の望海さんの素顔に迫る10の質問インタビューを実施。生まれ変わったらなりたいもの、必読です!
ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』公演情報
ブロードウェイ・ミュージカルのレジェンド、スティーヴン・ソンドハイムが1986年に発表し、最高栄誉のトニー賞で、オリジナル楽曲賞を含む3部門を制覇した傑作をまったくの新翻訳、まったくの新演出で。童話に新しい解釈を与え、大人向けファンタジーとして創り上げられたミュージカル。魔女に呪いをかけられたおとぎ話の主人公たちの物語が交差し、「森」の中で展開されるストーリー。人間の本能や欲望、深層心理を容赦なく暴き出し、美しく、ときに残酷な『イントゥ・ザ・ウッズ』の世界をご堪能あれ!
2022年1月11日(火)~31日(月) 日生劇場
2022年2月6日(日)~13日(日) 梅田芸術劇場メインホール
フォトギャラリー(全5枚)
<衣装詳細>
カバーオール¥28,600パンツ¥29,700(ともにアストラット/アストラット 新宿店 tel.03-5366-6560)イヤーカフ¥19,800(ルフェール/UTS PR tel.03-6427-1030)その他/スタイリスト私物
撮影/平井敬治 ヘアメーク/高城裕子 スタイリング/菊池志真 取材・文/よしだなお 構成/宮島彰子(CLASSY.ONLINE編集室)