漢字学習の目標となり、その到達度をはかることのできるものの一つが「日本漢字能力検定(漢字検定)」です。中でも、難関の「1級」「準1級」の次のランクに位置づけられる「2級」は、出題レベルが「高校卒業・大学・一般程度」であり、「常用漢字がすべて読み書き活用できるレベル」とも設定されていますので、在学中の2級取得を目標とする高校も多いようですが、何年か前に学校を卒業して、漢字をもう一度勉強しようとお考えの「一般・社会人・シニア」の皆さんにとっても、最初の目標となり得るものだと思います。ただし、合格率も、さすがに2級になると25%程度のようですので、けっしてやさしいというわけではありません。
というわけで、今週から数回にわたり、2020年度に実際に出題された過去問の中から、特に間違いやすいと思われるものを選んで出題します。では、始めましょう。
1.「市井」
最初は、「市井の人々の暮らしぶりを活写する」の問題文で出題された「市井」です。さて、何と読みますか?
「いちい」または「シジョウ」と読んだ人はいませんか?正解は「シセイ」でした。「井」の訓読みは「い」、熟語「井戸(いど)」は「訓+訓」で読んでいます。それに対し、音読みは「ショウ・セイ」の二つ。「ショウ」が呉音(最も古く日本に伝わった音)で、「天井(テンジョウ)」の読みがこれです。「セイ」は漢音(呉音についで伝わった、唐の都長安の音)で、「市井(シセイ)」の読みはこれです。
なお、「市井」の意味は「人家が多く集まっている所」です。昔、中国では井戸のある所に人が集まり、市(いち)が立ったことに由来します。
2.「帰巣」
次は、「ハトの帰巣本能を通信に利用する」の問題文で出題された「帰巣」です。さて、何と読みますか?
「帰」は「キ」しか読みようがありませんが、「巣」が問題です。訓読み「す」はわかりますが、音読みは? 正解は「キソウ」でした。「帰巣本能」とは、「動物が遠く離れた巣や繁殖地に帰ってくる性質、本能」のことです。音読み「巣(ソウ)」を含む熟語としては、他に「卵巣・精巣・巣窟(クツ)」などがあります。同じ熟語でも「巣箱」は訓読みで「すばこ」です。
3.「諭旨」
最後は、「情状をくんで諭旨免職とする」の問題文で出題された「諭旨」です。さて、何と読みますか?
これは「旨」の読みが思いつかないか、思い込みで「ロンシ」と読んでしまう誤答が多いのではないでしょうか。正解は「ユシ」でした。
まず、「旨」はれっきとした常用漢字で、「シ/むね」の音訓が記載されており、「考えの内容・意向」の意味を持ちます。よく使う「主旨・趣旨」などの他に、実は「論旨(=論文や議論の中心となる事柄)」があるのですね。よく国語の問題で「筆者の論旨をまとめよ」と使うあれです。これがあるために、「諭旨」を字形がよく似ている「論旨」と間違えてしまうのだと思います。「諭旨」の「諭」は「教諭」の「諭」、「さとす」という意味です。つまり、「諭旨免職」とは、言うならば「自発的に退職するように促す」ことになるわけです。
では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「漢検過去問題集2級」(日本漢字能力検定協会)
・「新明解国語辞典 第七版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)