学校で漢字の書き取り問題を作る時には、まず、その出題する漢字を含む例文(短文)を考えるわけですが、まるで「慣用句」のセットのように、ほぼ決まりきった組み合わせにしかならない熟語があります。たとえば、「途方」という熟語を出題するとします。例文の中の「途方」に続ける言葉を連想すると、恐らく「(途方に)に暮れる」か「(途方も)ない」しかありませんよね。入試漢字の問題集のページをめくっていたら、改めてそうした類(たぐい)が多いと感じました。今回はその中からいくつか紹介します。
1.「様相を□する」
最初は、「政局は混迷の様相を□する」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「様相を呈(てい)する」でした。まず、熟語「様相」は「物事のありさま・様子」です。漢字「呈」は、「露呈」などの熟語でも使われるように、「現す・現れる」の意味を持ちます。この動詞が「呈する」です。したがって、「様相を呈する」で「ある状態が現れる」となるわけです。
なお、動詞「呈する」には、「相手に差し出す・差し上げる」という意味もあります。「進呈」とか「苦言を呈する」はこちらの意味ですね。あわせて覚えておきましょう。
2.「物議を□す」
次は、「トップの無責任な発言が物議を□す」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「物議を醸(かも)す」でした。まず、熟語「物議」は「世間のやかましい議論」です。これに続く言葉は「かもす」であることはわかったけれど、漢字がわからなかったという人もいるのではないでしょうか? 「醸す」とは、「日本酒を醸す」などでも使われるように、「麹(こうじ)に水を加えて発酵させ、酒や醤油(しょうゆ)」などを作る」が本来の意味で、ここから「その場にある雰囲気や状態などを生み出す」という意味でも使われるようになりました。したがって、「物議を醸す」で「世間の論議を引き起こす」となるわけです。
なお、「物議を呼ぶ」という言い回しを聞くことがありますが、これは「論議を呼ぶ」と「物議を醸す」の混同と考えられますので、使わないほうが無難であると思われます。
3.「枚挙に□がない」
最後は、「失言をめぐるトラブルは枚挙に□がない」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「枚挙に暇(いとま)がない」でした。まず、熟語「枚挙」は「一つ一つ数え上げること」です。これに続く言葉は「いとまがない」であることはわかったけれど、こちらも漢字がわからなかったという人もいるのではないでしょうか? 「暇(いとま)」は「ひま」とも読めるように、「時間のゆとり・用事のない時」の意味です。「おいとまします」の形で、別れの挨拶もなります。したがって、「枚挙に暇がない」で「(時間がなくて)一つ一つ数えきれないほど多い」となるわけです。
なお、「暇」は「遑」という漢字を使うこともあります。見たことがありましたか? こちらは常用漢字の中には含まれませんが、「暇」と同じ意味を持ちます。読めるようにはしておきましょう。
いかがでしたか?次にどんな言葉が来るか、そしてどういう漢字を使うかを連想してもらうわけなので、この連載ですから、少し難しめのものを集めました。
知っていても漢字がわからなかったものや、実は正しい意味を知らなかったというのもあったのではないでしょうか? これで、次に出会った時は大丈夫ですね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「入試漢字2800」(桐原書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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