学校の先生が漢字の書き取り問題を作る時には、まず、その出題する漢字を含む例文(短文)を考えます。その際、「○○を~する」の組み合わせが、まるで「慣用句」のセットのように、ほぼ決まりきった形にしかならないものがあります。
たとえば、「頭角(トウカク)を~」と言えば、後に続くのは「現(あらわ)す」ですよね。大学入試漢字の問題集のページをめくっていたら、改めてそうした類(たぐい)が多いことを感じました。次にどんな言葉が来るか、そしてどういう漢字を使うか、少し難しめのものを集めました。では、紹介していきます。
1.「不遇を□つ」
最初は、「不遇を□つ友人を心から慰めた」などと使う「不遇を□つ」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「不遇を託(かこ)つ」です。まず、熟語「不遇」とは、「才能を持ちながら運が悪くて世間に認められないこと」です。問題はこれに続く「託つ」です。「託(かこ)つ」の読み自体がすでに難しいのですが、その意味はわかりますか?「不平を言う・嘆く」などの意味を持ちます。
なお、「託(かこ)つ」の関連語で、よりなじみがあるかもしれない「託(かこ)つける」は、「雨に託けて仕事を休む」と使い、「(あることをするために直接は結び付かないことを)口実にする」というニュアンスが強くなります。
2.「辛酸を□める」
次は、「彼は天下を取るまでに、多くの辛酸を□める経験を重ねた」などと使う「辛酸を□める」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「辛酸を嘗(な)める」です。「なめる」はわかっても、漢字まで予想できましたか? まず、熟語「辛酸」とは、「つらく苦しいこと・苦労」です。これに続く言葉「なめる」は分かっても、漢字が分からなかった人もいるのでは?「なめる」とは、もちろん「舌先でなでるように触れる」ということですが「つらい思いをする」意味にも使います。この漢字が常用漢字外の「嘗」です。
「臥薪嘗胆(ガシンショウタン)」という四字熟語を聞いたことがありますか? 「長い間の試練に耐えて苦労する」という意味で使いますが、この語の中の「嘗胆」は、「苦い胆(きも)を嘗める」ということで、それによって悔しさを忘れないようにするわけです。
3.「一矢を□いる」
最後は、「負け戦の中でせめて一矢を□いることを誓う」などと使う「一矢を□いる」です。□の中に入る言葉を漢字で答えてください。
正解は「一矢を報(むく)いる」です。まず、熟語「一矢」の読みに注意してください。「いちや」でも「ひとや」でもなく、「いっし」です。訓読み「や」を持つ常用漢字の「矢」の音読みは「シ」で、これ意外と思われるかもしれませんが、ちゃんと常用漢字表の中にあります。
この「一矢」に続く「報いる」は、「人から受けたことに対して、それに見合うだけのことをして返す」という意味です。「相手から受けた恩に対して、それに見合うことだけのことをして返す」という「恩返し」の意味でも使いますが、「敵に仕返しする」、つまり「報復」の意味でも使います。「一矢を報いる」は後者ですね。
いかがでした、知っていても漢字がわからなかったものや、実は正しい意味を知らなかったというのもあったのではないでしょうか? これで、次に出会った時は大丈夫ですね。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「入試漢字2800」(桐原書店)
・「新字源」(角川書店)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)