今回取り上げる漢字の読み方は、慣用句編です。「二つ以上の語が結びついた形で使われ、全体である特定の意味を表わすもの」を慣用句と言います。たとえば、「油をしぼる(=叱ったり責めたりして、きつく懲らしめる)」の類です。この中には、意外と読み間違いをしやすいものが多くあります。仮に自分で使うことはなくても、他人の発言や文章の中で、見聞きすることがありますので、読み方や意味は知っておきたいですね。
1.「野に下る」
最初は、「官職を辞して野に下る」などと使われる「野に下る」です。さて、何と読みますか?
正解は「やにくだる」です。たぶん、「のにくだる」とか「やにさがる」とか読んだ人がいるでしょう。常用漢字「野」は、音読み「ヤ」と訓読み「の」がありますが、漢字一文字だと多くは「の」と読みますので、読み間違えるのも無理はないでしょう。また、「やにさがる」は全く別の言葉で、「脂下がる」と書き、「いい気になってにやにやする」の意味で使います。
さて、「野」の意味は、本来は「広々とした土地・野原」ですが、「民間」の意味もありますから、「野に下る」と結びつくと、「公職から民間の生活に入る」という意味になります。「下野(げや)する」も同じ意味です。
2.「間尺に合わない」
次は、「どう考えても間尺に合わない仕事だ」などと使う「間尺に合わない」です。さて、何と読みますか?「かんしゃくにあわない」とか「けんしゃくにあわない」とか読んだ人はいませんか。
正解は「ましゃくにあわない」でした。「間」を「ま」読むのは訓読み。「尺」を「シャク」と読むのは音読みですから、熟語「間尺」は「訓読み+音読み」、つまり変則的な読みである「湯桶(ゆトウ)読み」になります。
この「間尺」の意味は、もともと「建築工事などの寸法」です。ここから「損得の計算」の意味が生まれましたので、「間尺に合わない」と結びついた場合は、「割に合わない・損になる」という意味で使います。
3.「気骨が折れる」
最後は、「お客様の接待は気骨が折れる」などと使う「気骨が折れる」です。さて、何と読みますか?
正解は「きぼねがおれる」です。「キコツがおれる」じゃないのですか、という声が聞こえてきそうですが、実は熟語「気骨」には二通りの読みがあり、別々の言葉なのです。
まず、「キコツ」と読むと、「困難にも屈せずに信念を貫こうとする強い心」の意味となり、「最近の若者は気骨に欠ける」のように使います。次に、「キぼね」と読むと、「気づかい・気苦労」の意味になります。この問題は「~が折れる」のパターンですので、「キぼね」です。「キぼね」と読んだ場合は、前問「間尺」でも説明した「湯桶読み」であるのはもうおわかりですね。
皆さんも、慣用句を正しく使いこなして、「大人の会話」を目指してください。では、今回はこのへんで。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「古語林」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「知らずに使っている残念な日本語」(宝島社)
・「知っておきたい日本語常識ドリル」(朝日新聞社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)
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