おなじみの「漢字の読み方」に関するCLASSY.ONLINEでの連載。今回取り上げるのは、すべて「強」という漢字の読みです。常用漢字表で示された、強の音読みは、「キョウ」と「ゴウ」。「強弱(キョウジャク)」「強引(ゴウイン)」などで使いますね。訓読みは、「つよ(い・まる・める)」と「し(いる)」です。「ゴウ」と「し・いる」は中学生で習う読みですので、少し難しいでしょうか。
実は、「強」にはこれ以外にもいくつかの読みがあります。いわゆる「表外読み」というものです。言葉自体は、よく聞くものですので、ぜひ読めるようにしてください。では、始めましょう
1.「強か」
最初は、「激動の時代を強かに生き抜く」などと使われる「強か」です。さて、何と読みますか?
正解は「したた・か」です。語釈の独自性で何かと話題になることが多い「新解さん」こと、『新明解国語辞典(第八版)』ではこうあります。「逆境に立たされてもくじけることなく、いかなる手段や奇計とも思える策を弄してでも危機や困難を乗り越えよう(世間の思惑などを気にせず、自己の利益や立場を守ろう)とする強い生命力・精神力をそなえているととらえられる様子だ」。長文かつ思い切った語釈ですね。
なお、この言葉は「酒を飲んで強かに酔った」のように「ひどく・たくさん」の意味で、使われることもあります。
2.「強い」
次は、「飯が強い」などと使う「強い」です。さて、何と読みますか?送りがなだけを見て、なんだ、「つよ・い」じゃないかと思った人はいませんか。もちろん、その読みなら出題しません。
正解は「こわ・い」でした。「水分が少なくて堅いさま」を表わします。「強」を「こわ」と読む言葉には、「強張(こわば)る」や「強面(こわもて)」などがあります。
ちなみに、私の住む県では、「こわい」を「疲れた・骨が折れる」という意味で使うことがあります。全国的には通用しない方言といってよいかもしれませんが、古語の形容詞「こはし=堅い・ごわごわしている」に由来する言葉でしょう。「恐い(怖い)」ではないのです。
3.「強ち」
最後は、「彼の主張は強ち間違いとは言えない」などと使う「強ち」です。さて、何と読みますか?
正解は「あなが・ち」です。よく聞く言葉だけれど、正直どういう意味かわからなかったという人もいることでしょう。「全面的に断定できないという話し手の気持ちを」を表わし、「必ずしも~ない」とほぼ同じ意味で使いますので、普通は下に打ち消しの言葉を要求します。なお、「強ち」は言葉の歴史をさかのぼると、古語の形容動詞「強ちなり」になります。もともとは、「無理やりである・勝手だ」という意味が主でした。冒頭にあげた熟語「強引」はこの意味です。ここから、現在の副詞「強ち」の意味用法が生まれました。
今回の「強」のように、同じ漢字でも、複数の読みを持つものがたくさんあります。難しいけれど、そこが漢字のおもしろいところでもありますね。
《参考文献》
・「新明解国語辞典 第八版」(三省堂)
・「明鏡国語辞典 第三版」(大修館書店)
・「古語林」(大修館書店)
・「新字源」(角川書店)
・「知らずに使っている残念な日本語」(宝島社)
・「知っておきたい日本語常識ドリル」(朝日新聞社)
文/田舎教師 編集/菅谷文人(CLASSY.ONLINE編集室)